リクエスト

□雨の日の忘れ物
1ページ/4ページ


今日の空模様は水玉の灰色。思わず鬱々としてしまうような淫雨。

臨也は、一人きりの教室で窓の外を眺めていた。

「帰ろうかな…」

放課後の教室は電気を点けていても寂しげな空気が漂っている。
既に小一時間ほど教室に居るのだが、雨は止みそうも無く、小降りになる気配も無い。
朝晴れていたため傘を持ってこなかった。
――そして、この様である。

止まない雨に呆れながら、そろそろ雨に濡れてでも家に帰ろうか――そう思っていた。


ガラリ。

その時突然背後から乾いた音が響いた。
先生が点呼に来たのかと思いながら、臨也は振り返った。

しかし、それは点呼の先生などではなく。
…予想外の奴が立っていた。

「シズちゃん…なんで居るの?」

教室に入ってきた静雄は「忘れ物」とひとつだけ呟き、静雄の机の隣にかかる鞄を探り出した。
臨也は暇潰しの気分で静雄の隣へ行き、一緒に鞄を覗き込んだ。

「何探してるの?」

「鍵だよ、家の」

「家の鍵忘れるなんて中々鈍くさいね」

静雄は明らかに馬鹿にした口調で言った臨也に苛立った視線を向けたものの、鞄を探り続ける。
結局鍵は、鞄の底に転がっていた。


静雄は帰ろうと思い、臨也を残して教室を出ようとしたものの、ふと気になって臨也に尋ねた。

「ノミ蟲はなんでいるんだよ」

「傘忘れたから、雨止むの待ってるんだよ」

臨也の言葉に、静雄は馬鹿にしたように笑った。

「傘忘れるなんてかなりどんくせぇな」

「…シズちゃんよりマシだよ」

口が悪くなったものの、そっくり返ってきた言葉に臨也は拗ねたように目を細めて返した。

「でもいいよ、俺雨嫌いじゃないし、濡れて帰るから」

先刻まで雨が止むのを待っていたのを棚に上げてそう言った臨也。



次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ