*アイタイ。

□8
2ページ/12ページ


***

臨也は、男と二人きりで黙り込んだまま、部屋の中にいた。

…このまま助けが来なかったら、俺はどうなるんだろう。
負の思考ばかりが働き、助けを待とう、と気張る心を揺さぶる。
纏められて自由を奪われた手では、何もすることが出来ない。
況してや、怪しい動きをすれば、命すら危ないのだろう。
…相手は、拳銃を使うのだから。

そう思い、再び蘇った先刻の会話に胸が痛くなった。

『平和島静雄を撃て、って言ったのはテメエだよなァ、折原さん』

嘘だと、信じたかった。
まさか、記憶を失う前の自分が、静雄を撃てと命令したなんて、信じたくなかった。
静雄が愛している“臨也”が、その静雄を殺そうとするなんて。
確かに、性格としては、記憶を無くす前の折原臨也と自分とではまるで他人だ。
…それでも、妙な罪悪感に苛まれるのは、記憶を少しずつ思い出しているからで。

――その時、カチャリ、と向こうから扉の開く音がした。
ここの建物に誰か入ってきたのだろうか、思わず僅かな期待を寄せる。
逆に、その部屋に共にいた柊木組の男は、
僅かに緊張を滲ませた顔で、部屋の扉の小窓から、玄関口を除き見た。

…男の顔が引きつる。
信じられないものを見た、そう物語っている男の表情。
その唇は、聞き慣れた名前を、震える声で呟いた。

「平和島静雄…!」

――まさか、助けに?
期待が現実になったのかもしれない、そんな思いが渦を巻いて、痛いくらいに鼓動が跳ね上がる。

祈るような思いで、臨也は声の限りに叫んだ。

「静雄さん!
いるの!?静雄さん!!」

シズちゃん、そう呼ぼうと頑張っていたことすら忘れて、臨也はひたすらに声を張り上げる。
しかし、男にその口を塞がれる。
それでも、どうにか気が付いて欲しくて、臨也は必死にくぐもった声で叫んだ。


***

次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ