Novel3

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「初めまして、シズちゃん」

臨也の言葉に、静雄は目を丸くした。それから、眉間に皺を寄せて首を傾げる。

「誰だ、手前」

「折原臨也。臨也でいいよ」

そう言って、臨也は静雄の家に上がり込もうとする。
勿論止められた。人の家に何勝手に入ってるんだ、と手荒く玄関から追い出された。
けれど、臨也は笑う。警戒心剥き出しの静雄の鼻先に指を立てて。

「シズちゃん、俺はシズちゃんの恋人だよ。シズちゃんは憶えてないかもしれないけどね」

手前みたいなのが恋人な記憶はねぇ。そう言った静雄に、臨也は笑みを浮かべると頷いた。
静雄は、唇をつぐんだ。

「今日1日だけ、恋人でいよう」

「でも俺は、手前を好きじゃ…」

「いいよ。シズちゃんはいてくれるだけでいい」

臨也の声に、静雄は何も言えなかった。


それから、二人で静雄の家で過ごした。一緒にご飯を食べて、隣同士でテレビを見て、話して、口喧嘩になって。静雄が少しずつ心を許していくのが、嬉しかった。
けれど、1日は24時間。静雄の記憶を奪う次の日が、刻々と近付いてくる。
シズちゃんの記憶は明日にはなくなっちゃうんだよ。そう言えば、静雄は素直に頷いた。最近の記憶が思い出そうとしても何一つ出てこないのだと言った。

「俺は、明日になったら手前を忘れてるのか」

静雄の言葉に、臨也は静かに頷く。そうか、と呟かれた声に、臨也は苦笑を漏らした。
静雄を見れば、酷く沈んだ表情をしていて。

「大丈夫だよ、そんな顔しなくても。明日になったら全部リセットされるから。俺も咎めようと思ってないし」

そう返せば、静雄は戸惑いを浮かべた顔を臨也に向けて、それから小さく笑う。
どうしたの、と尋ねようとしたけれど、静雄が先に口を開いた。

「明日にならなきゃいいのにな」

ぎゅっと胸が苦しくなった。そうだね、静かに返せば、静雄は小さく頷く。
俺は、シズちゃんが記憶を飛ばすようになったあの日から、1日も踏み出せていない。日付だけが進んでいく毎日。
…と、静雄が不意に顔を上げた。

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