Novel3

□教えてあげない、
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それから週に3回、臨也は静雄の家庭教師としてこの家に来るようになった。
馬鹿ではないが、頭が良くはない。実に平凡な頭の静雄に、呆れたり笑ったりしながら、臨也はそれなりに楽しんでいた。
そして、明日からテスト、という前日。

「はい、じゃあこれ解いて」

「あー、面倒臭ぇ…てかもう時間終わりだろ」

顔をしかめて言った静雄に、臨也は数式で埋まったプリントを指で弾く。

「まだこの公式、基本なのにうまく使えないでしょ。テスト出たら点数落とす可能性があるんだから潰しておかなきゃ」

臨也の言葉に眉間に皺を寄せた静雄にニコリと笑いかけて、終わらないと帰らないよ、と言ってやれば、静雄は渋々といった様子でようやく解き始めた。

教えに来るようになって三週間。始めの頃よりも幾分解ける問題は増えたと思う。
何だかんだ、嫌がりつつもきちんとついてきてくれるわけで。この分なら、成績も上がるだろう。
…それに、距離が少し縮まった。小さな頃は嫌われたのかと思っていたけれど、こうしてみると別に嫌われているのではないのだと思う。所詮、思うだけだけれど。

「なぁ」

「何?分からない問題でもあった?」

不意にかけられた声に、臨也はプリントを覗き込む。そうして見つけた間違いに、ここ違うよ、と言おうとした時だった。

「手前は付き合ってる奴とかいるのか?」

きょとんとした。何故唐突にそんな質問をしたのか。尋ねようとしたけれど、臨也は先に首を横に振る。
残念ながらいないんだよね。ふざけたように言った臨也に、静雄は僅かに驚いたように目を見開いた。
何変な顔してるの、と笑って静雄の頬をつねってやろうとした時。


「俺、臨也が好きだ」


思わず、目を丸くした。声が出なかった。
ぱちりと重なった視線に、勝手に身体が固まる。真剣な瞳は、とても悪い冗談には思えなかった。
それと同時に、久しぶりに静雄に名前を呼ばれた気がした。

「突然、好きとか」

流れた沈黙に堪えかねて俯いて声を震わせた臨也。
静雄は、ふと笑みを溢した。いつになく大人びていた。

「答えは、テストで順位が上がったら」

「……生意気」

まさかこれだけ勉強して、出来るようになったと教えた俺が自覚していて、駄目なはずがないじゃないか。
けれど、高校生に言われたたった一言に頭を掻き乱されて、臨也はそれ以上何も言えなかった。


『臨也が好きだ』
誰が?どうして俺なんか?始めはあんなに嫌そうな顔してたくせに?
その日帰路についた臨也は、静雄の言葉を消化しきれないままでいた。
だって、どう受け入れろと言うのだ。小さな頃距離を感じて会わなくなった奴。再会して初っぱな溜め息に、帰れの言葉を吐いた奴が。
好き?俺を?どうして?
ドキドキと煩く鼓動は跳ねる。理由は分からない。借りにも告白されたからだろうか。
年下の、男に。静雄に。
――何より、それを拒もうとする自分がいないことが、一番分からなかった。
テストの順位が上がったら、なんて。
下らない。下らないよ。馬鹿。



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