Novel3

□教えてあげない、
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「今日から静雄の家庭教師をしてくれる折原臨也君だ」

父の直属の上司である彼の言葉に、臨也は頭を下げて柔らかく笑って見せる。

「久しぶり、シズちゃん」

彼の息子である青年に言えば、金髪の下の顔を僅かにしかめて頭も下げずに溜め息をひとつ。
そんな息子の態度を父親として叱りだした光景を見つめて、そんなのいいですよ、なんて口にしながら、臨也も胸中で溜め息をついた。


臨也は有名な国立大に通う大学生である。
勿論、首席で現役合格。実のところ、勉強もそこそこしかしていないのだが。
そんな臨也の父は普通のサラリーマンであり、父の直属の上司が今正に目の前にいる静雄の父である。
元々昔から父同士は仲も良く家族ぐるみで遊びに行ったりしていたのだが、年を重ねるにつれて静雄と距離を感じるようになって、ついていくことも少なくなった。故に、こうして顔を合わせたのも久しぶりである。
と、そんな関係もあり、今年大学受験という静雄の家庭教師を父経由で頼まれた。正直なところ、どうして自分がこんな面倒臭いことをしなければならないんだ、と思ったわけだけれど、簡単に断るわけにはいかず受けたわけだ。
…けれど。

教えてもらおうっていう本人がこれじゃ、意味がないんじゃないだろうか…

思ったけれど口には出さず、臨也はひきつりそうになる顔を苦笑で塗り固めた。


そうして部屋に入って早々。

「どうせ教えたくなんかねぇだろ、帰れよ」

鬱陶しそうに言われた言葉に、臨也は顔をしかめた。
静雄は昔から人と付き合うことが得意な性格では無かったが、こんなにも無愛想な奴だった記憶はない。時間が彼をこんなにもひねくれさせたのなら、何て残酷なのだろう。
斯く言う臨也も、小さな頃はもっと大人しく可愛いげのある子供だったとは思っているけれど。

「何でそう決めつけるかな。まぁ確かに教えてもらう気のない君に教えるのは気が進まないけど、成果を出してもらわなきゃ。俺を招いた意味があったのかって思われるのは嫌だからね」

当たり前のように私情を挟んだ言葉を吐き、臨也は自分が受験の時使った参考書を机に載せていく。
それを嫌そうに見つめた静雄は、臨也をちらりと見やってベッドに腰を下ろした。

「嫌なら断れば良かっただろ」

「あのねシズちゃん、社会には上下関係が存在してるんだよ」

「あ?俺と手前は」

「折原課長と平和島部長はね」

そう返せば、静雄は口を閉ざした。
流石に理解したか、と息を吐きながら、臨也は静雄の隣に座る。静雄は臨也を避けるかのごとく身体をずらした。
そんな静雄の態度に、年月の隔たりを感じながら口を開く。

「ま、そういうことだから、次の考査の順位は上げてね」

「…めんどくせぇ……」

「面倒臭いのは頭の良くない息子を持った父親が上司の男の息子の俺だよ」

笑顔と共にそう言ってやれば、静雄は顔をしかめてそっぽを向いた。



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