Novel3

□Willful Baby
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「もし俺もシズちゃんもふつうの人間だったら、普通にデートできたのかな…」


ぽつりと呟いた言葉に、静雄は此方を見た。茶色がかった瞳に沈んだ自分の顔が写り込むのが、視界の端で見える。
臨也?
どうしたのかと尋ねるように紡がれた声に、臨也は独り言のように訥々と口を開いた。

「こんなの、俺の我が侭だって分かってるよ…でも、だからって納得して諦めたくない。
普通にデートしたい。普通の男女がするようなデートが出来なくたって、二人でいるときくらい恋人らしくしたい。
男同士で、況して俺がこんなじゃ、無理だって分かってるけど――」

けど、好きなんだよ。
膝に顔を埋める。訳も分からず涙が溢れて視界が眩んだ。
隣の静雄は何も言わないまま、時間だけが過ぎていく。怒らせてしまっただろうかと思えば、また別の涙が膝を濡らした。

いやだ。こんな俺一人の我が侭で仲違いなんかしたくない。
でも、寂しかった。片想いじゃないはずなのに、まるで片想いだった頃みたいで。
好きになればなるだけ、否定されたら傷付いてしまう。けれど、それを止められる術など知らない。

唇を噛み締めて、零れそうになる嗚咽を堪えた時だった。

静雄の腕が、臨也を抱き締めた。
始めは何が何だか分からなかった。突然、心地良い温度と力が、身体を包み込んだから。

「シズ、ちゃ…」

「ごめん」

低い耳慣れた声が、臨也の耳許で響いた。胸が勝手に高鳴る。
静雄は臨也の肩口に顔を埋めて、再びごめんと囁いた。
たったそれだけ。なのに、先刻まで苦しいばかりだった胸が簡単に溶かされる。

「メール見て急いで帰ってきたんだけど、途中でまた絡まれて…苛々したまんま帰ってきて悪かったな」

言い訳になるかもしれない。けど、臨也に気を許してるからこそだ。まぁ、それで臨也をこんな風にさせるんだったら、悪いのは俺だけどな…。
静雄はそう言って、申し訳なさそうに小さく笑った。

…胸が、暖かくなった。
その優しいほどの温度を伝えるように静雄の背に腕を回す。視界は滲んだままだったけれど、もう苦しくはなかった。

「もう、いいや」

もういい。だって、心を許しているからこそなら、それは嬉しいこと他ならない。
単純だと笑われるだろう。けれどそれでも構わないのだ。
愛おしいから。

「臨也…?」

「もういい。シズちゃんが機嫌悪くても、隣にいられるならいいや」

彼の言動一つに一喜一憂するなんて、馬鹿みたいに単純だと思った。でも、静雄も単純なのだから、いっそこの方がつりあいがとれるかもしれない。
そんなことを思えば頬が緩む。静雄はそんな臨也の肩を更に強く抱いた。
その腕に満ち足りた幸せを感じて肩口に顔を埋めれば、静雄が不意に口を開く。

「まぁ、でも…
多少我が侭になってくれた方が、俺は嬉しいけどな」

愛されてるって思うから。そう囁いて照れたように笑った静雄に、胸が暖かくなる。幸せすぎて苦しくなる。

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