Novel3

□Willful Baby
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ピンポン、と指先で押したボタンが来客を告げる。
臨也は玄関の前で、扉が開くのを待っていた。
けれど、静雄はまだ仕事中で外を回っているのか出てこない。
溜め息をついた臨也は、扉にもたれ掛かった。

普通のデートができない。
宛もなく街を歩いたり、映画を見たり、カフェで喋ったり。
幾ら実行しても、いつも邪魔される。
行き着くのはいつも互いの家だ。旅行でもすればいいのかもしれないが、生憎二人にも持て余す暇など限られている。
別に家でのデートが不満という訳じゃない。家でしかろくに触れ合えないなら、家で存分に恋人らしくすればいい。
…だからこそ、こうして尋ねた時に静雄がいないと無駄に落ち込むわけだけれど。

とりあえず、家の前にいる、とメールをして、臨也は大人しく待っていることにした。
静雄が帰ってきたら、好きなだけ甘えよう。こんな下らない不満なんて、愛情に触れれば大したことではないと思えるくらいに。



「おい」

ふとぼんやりした意識に入り込んだ低い声に、臨也は瞼を開いた。視界に入った足を見上げれば、やはり静雄で。
いつの間に寝ていたのだろうと白む視界を擦って立ち上がる。

「遊びに来た」

「見れば分かる」

素っ気なく答えられた声に、臨也は小さく首を傾げる。
何でこんなに機嫌が悪そうなんだ。人が折角会いに来たのに。
唇を尖らせたくなったけれど、臨也にも機嫌の悪い時くらいある。静雄ばかりを責めるのも悪く思えて、臨也は口を開くのを止めた。

「入れよ」

相も変わらず不機嫌を滲ませたまま言った静雄に、臨也は気にしていないふりをしながら静雄の家にあがった。
時間が経てば、静雄の機嫌が直るのを予想して。


…けれど。

「シズちゃん何か飲む?」

「…別に」

何かしらを尋ねても。

「馬鹿だねーこの人」

「……」

テレビを見ていても。

静雄の不機嫌は直らなくて。
そのお陰で、臨也まで機嫌が悪くなっていく。
どうしようもなく、臨也は静雄の隣に腰を下ろした。

外でデートなんかしても、思い通りになりはしない。
だから、せめて家で二人きりになった時くらい、甘くなってくれたっていいじゃないか。こんなときくらい、機嫌の悪さも隠してくれたっていいじゃないか。
こうして我が侭になる自分が嫌だ。嫌だけれど、ままならないことが多すぎて我が侭になってしまう。
愛情が余って、駄々になってしまう。
そんなの分かっているけれど。

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