Novel2

□通り過ぎた
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「静雄君は馬鹿だね」

「ああ!?」

自習という自由に近い体育の授業の最中、唐突にそう言った声に、静雄は思わず唸って眉をしかめた。
怖いな、怒らないでよ、と笑った、静雄を苛立たせた張本人の新羅は、含み笑いをしながら静雄を見やる。

「静雄君だって、自分は馬鹿だって思ってるだろ?」

「…何で」

「4人の中で、ずっと傍観者をしている僕をなめないでよ?」

偉そうに言った新羅に呆れながらも、胸はぎしりと軋んだ。
…新羅にはばれている。門田だとか臨也だとかの方が気付かないだろうとは思っていたけれど。

「…何の話だ」

「言ってほしい?」

あくまで知らばくれようとする静雄を、新羅は笑って否定する。
顔をしかめて新羅を無視してやろうとすれば、それは嫌なのか、ごめんと形ばかりの常套句と共に静雄の視界に入り込んだ。

「でも、自覚はしてるんだろ?報われないのに、って」

「――…」

嘘をつくのが苦手な静雄は誤魔化すことも出来ず黙り込む。
そんな静雄を、新羅は微笑みを浮かべて見やった。嘲笑でもなく、哀れみでもない、ただ穏やかな表情で。

「素直に言ってしまってバッサリ振られれば、諦めもつくんじゃない?」

「…馬鹿か、」

確かに、新羅の言うことも一理ある。酷い振られ方をすれば、諦められるかもしれない。きっと、臨也なら冷笑と罵倒を容赦なく向けてくるだろう。
…けれど、もしほんの一握りもない可能性を信じたとして。
臨也が泣いたらどうなる?申し訳なさそうに謝られたらどうなる?…もし、愛してくれる欠片を見つけてしまったらどうなる?
そうなったら、俺は諦める道を選べるのだろうか?

…いや、そんなことあるはずがない。今の関係の何処に、そんな可能性があると言うのだ。

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