Novel2
□通り過ぎた
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「悪い、遅くなった」
不意に聞こえた声に、臨也の顔がぱぁっと明るくなった。
――ああ、だから嫌なのだ。
「ドタチン!!」
先刻までとは真逆な、至極嬉しそうな声と共に臨也は立ち上がり、来たばかりの門田に抱きついた。
まるで、つい先程まで喧嘩になりかねない会話をしていた静雄のことなど、見えていないかのように。
臨也を睨み見る静雄に気がついた門田は、臨也の頭を撫でながら、呆れたような溜め息を漏らす。
「また静雄に何か言ったのか」
「別にぃ」
別に、って。
苛立ちに力を行使しようと思ったのだけれど。
門田にぎゅうと抱きつく臨也は、静雄なんか目の端にも映していなくて。
「…手前のなんだから、手前が臨也をちゃんと躾けろよ」
「ん?…ああ、ごめん」
静雄の切り返しに、僅かに驚きつつも門田は照れながら返事をする。勿論、臨也からは一言も返って来なかった。
こうなることは予想していた。自分なんかに興味を示すはずがないことも、会話すら面倒だと思われていることも、分かっていた。
だからこそ、何も言わない。何も言ってはいけない。もし口を開こうものなら、絶対にこの感情が露呈してしまうから。
臨也が、好き。
俺は馬鹿だ。そんなの分かっている。
こんなに報われない恋をする必要も無いだろうに、諦められないなんて。
来神に入学して臨也と知り合って、喧嘩しかしないのに好きになって。でもそれから半年で、門田と臨也が付き合い始めて。
どうして好きになってしまった?どうして諦められない?
考えても考えても、堂々巡りな思考はどうしようもない。
いつか、諦められる日が来るまで、この不毛な想いを抱え続けるしかないのだ。
臨也の言葉を認めたくはないけれど、つくづく自分は馬鹿なのだろう。
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