Novel2

□※恨みの末には、
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『手前……』

静雄の信じられないと言いたげな声が響いく。空の青を映したような制服が、季節外れのプールの更衣室に響いた。
同じくらい表情を驚きに染めた臨也は、気まずさを滲ませて静雄から視線を逸らす。目に痛いような赤いシャツも、薄暗い蛍光灯に陰っていた。

『何だよ、何で…』

『…シズちゃんには関係ないよ』

呟くような静雄の声に臨也は素っ気なくそう言って、投げ出されてよれた学ランを拾い上げる。僅かに飛んだ白濁を手で払いそれを羽織れば、いつも抱き締めてくれる静雄の匂いではなくて、先刻臨也を犯したひとつ年上の先輩のシャツの臭いがした。
すぐに脱ぎ捨てたかったけれど、静雄を手前にそんなことをすれば間違いなく泣き出してしまいそうで、唇を強く噛んだ。

『関係なくないだろ…!』

厳しい顔でずんずんと歩み寄って来た静雄に、臨也はびくりと身体を跳ねさせた。呼吸が上手くできない。
胸に渦巻くのは、静雄にもう愛してもらえないという恐怖で。
仕方ない。自分が悪い。すぐに断ち切らなかったのだから。
でも……嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ。嫌われたくない。傍にいたい。

ぱしん。甲高い音が、臨也の頬を打った。

けれど、次に臨也に加わった感覚は、傷みでもなく苦しさでもなく。
暖かな温度だった。

『何でだよ…俺じゃ足りないのか?不満なのか?本当は好きじゃないのか?』

『…っ』

違う。シズちゃんは大好きだよ。
誰と身体を交えても、シズちゃんより気持ちいいことなんてなかったよ。

『手前は、俺が…』

『ごめ、ん…っ』

失望されたかな。侮蔑されたかな。この腕が優しいと思うのは、勘違いかな。

『ごめん…ごめん…っ!』

涙が溢れた。止まらなかった。
けれど、静雄の掌は震える臨也の肩を抱き締めて、離さなかった。


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