Novel2

□※恨みの末には、
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ふと意識が戻った。
自宅ではない見慣れた天井。ああ寝てたのか、と思いながら、昨日のことを思い出す。
昨日は仕事終わりに静雄の家に来て、何時ものように身体を重ねて、シャワーを浴びてすぐ寝てしまった。
肉欲を満たすために家に来たんじゃないんだから、自分でもこの自堕落な逢瀬はどうかと思う。
勿論、それだけの理由で会いに来てるのではない。性欲を解消するというのはあるけれど、それは好きな人だからだ。愛しくなければこんなこと、しようと思わない。
そんなことなど考えていなかった、静雄と付き合う前までの自分は別として。

と、静雄が隣にいないことに気がついた。
いつもなら、臨也が目を覚ます時間など窮屈なベッドの隣でぐっすり寝ているというのに。
そんなに起きるのが遅かったのだろうか、と思い、起き上がるために手をつこうとした時だった。
カチャン、と金属の伸びきった音と共に、手が動かなくなった。
ハッとして目の前に持ってきた両手を見て、臨也の思考はピタリと停止する。
――今まで散々身を犠牲にして情報屋としての仕事を楽しんできたが、どうしてこんな場所でこんなものを腕にはめなければならないのだ。
瞬きをしてみたけれど――
目の前の金属、手錠は臨也の両手首をガッチリと捕まえている。
更にその手錠は、ベッドの柵にくくりつけられており、広範囲を移動できないようになっていた。
確かにここは静雄の家で、だから敵対する誰かに襲われるなんてことはないはずで。

シズちゃんが誰かにやられたとか?…まさか。そんなことあるはずがない。
だったら誰が?

導かれる答えはひとつ。
耳に入り込んだドアの開く音に、呆然としていた臨也は弾かれたように音のした方へ目を向けた。
その先にいた静雄は、臨也が訝しげな目で自分を見ているのに気がつき、口元だけを緩ませる。
その何処が恐怖心を煽る笑みに、臨也はかつて感じたことの無い違和感に見舞われながら口を開いた。

「シズちゃん。何かな、これ」

両手首を掲げて見せれば、静雄はその表情のまま臨也に歩み寄ってきた。
昨夜の名残で痛む身体を動かし上半身だけ起き上がると、静雄に向き合う。睨むように見上げるも静雄にそんな睨め付けが通用するはずがなく、視線がぶつかった。

「外してよ。俺も仕事あるんだけど」

「んなの、行かなくて良いだろ」

「は?良くないよ、良いわけがない。シズちゃんだって仕事行かなきゃって思うだろ」

語調を強くして言えば、静雄はその目を細めた。自ずと呼吸が止まる。
静雄は低く呟くような声で言った。

「手前、俺以外ともセックスしてるだろ、どうせ」

「…は?」

思わず固まった。
していない。しているわけがない。好きな人と触れ合うことに慣れた贅沢な身体を、どうして他人に触れさせなければならないのだ。
信じられない。そんな感情を滲ませる瞳を静雄へ向ければ、静雄は唐突に臨也の手を掴んでそのままベッドへ押し倒した。
息を詰めた臨也の上にのし掛かった静雄は、やはり笑みを口元だけに浮かべて言うのだ。

「だったら仕事行かなくて良いだろ」

…全くもって理解できない静雄の言葉に、臨也は苛立ちを覚える。お前は俺の飼い主か何かか、と胸中で吐き捨てながらも、得体の知れない不安は胸に蟠ったままで。

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