Novel2

□しかめっ面に甘いキス
3ページ/3ページ



「シズちゃん、キスしよう」

「…あ?」

それから一週間。
臨也の声に、静雄は相変わらず嫌そうな顔をする。
…けれど、もうその表情に悩む必要など無いと分かったから。

「いいよ、シズちゃんがしてくれなくても俺からするから」

「なっ…」

たじろいだ静雄の頬を掌で包み込み、間髪入れずキスをした。
この一週間で学んだのは、シズちゃんから出来ないのなら俺からやってしまえばいいということ。
そういうわけで、静雄に会った時は毎回、恥ずかしがる静雄に勝手に唇を重ねている。勿論、してもらえれば嬉しいけれど、口付けに意味があるのだからそこは目を瞑ってやろうと、今は思える。

唇を離して、また今日も顔をしかめて固まっているんだろうな、と思いながら、静雄を見たけれど。
――その予想は、綺麗に裏切られた。

「っわ!?」

手首が動かなくなったと思えば、ぐるん、と世界が流れる。
何事かと状況を理解する前には既に、臨也は背中に床の感触を感じていた。
目の前には陰る静雄の顔。僅かに赤らんで、それでいてしかめられていて。
押し倒された。その事実に気付いたとき、頭はぱちんと弾けた。

「え、ちょ…」

慌てて何かを言おうとしたけれど。

臨也の唇を塞いだのは、静雄の唇。
驚いて目を瞑る間もなく、静雄の唇は離れる。
しかしまたすぐにくっつけられ、今度は舌が割り込んできた。
予想外のことに固まる臨也に対し、静雄の舌は容赦なく臨也の舌を絡めとり、口腔を蹂躙する。唾液の混ざり合う艶かしい音が、唇に隙間が出来る度に響いた。
不慣れな、けれど目眩のするような激しい口付けに、頭はぼんやりとしている。
気付けば臨也からも舌を絡め返していた。

「ん…ふ、ぁ…、し、ずちゃ…はあっ」

「っ…ん、は…ぅ…」

長い長い口付け。その甘さに呑まれていく感覚が心地良い。
ようやく唇が離れたと思った後でも、頭はふわふわとしたままで。
――そんな臨也に、静雄は得意気に笑って見せた。

「されてばかりじゃ、気に食わねぇ」

「…っ、ばか…」

ああもう、何て奴だ。
無愛想だし、不器用だし、強引だし。

…でも、好き。




――真面目に恋をする男は、恋人の前では困惑し、拙劣であり、愛嬌もろくに無いものである。
カント

END
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ