Novel2

□しかめっ面に甘いキス
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けれどやっぱり、シズちゃんはちゃんと俺の家に来てくれる。
料理を作れば嬉しそうに食べてくれるし、一緒にテレビを見るなら隣同士。俺が笑えば、シズちゃんも笑ったり、何が楽しいんだと苦笑したり。
…もし、シズちゃんが本当に俺と触れ合う関係を望んでいないなら、これは何だと言うのだ。

「……、…也?」

静雄に名前を呼ばれて、臨也は意識を呼び戻した。何、と返せば、静雄は眉間に皺を寄せて首を傾げた。

「何かあったのか?」

どきりと跳ねた胸。確かにこれだけぼんやりしていては不審に思われても仕方がない。
今ここで、何でもないよ、と誤魔化すことは容易い。静雄が素直に信じてくれるかは定かではないけれど。
…けれど。

「…何だと思う?」

あえて、問いかけた。
静雄が何を察してくれるとか、期待しているのではない。
…ただの、我が侭。

静雄は眉間の皺を更に深くして、臨也をじっと見た。その真剣さに圧されて視線を逸らすけれど、静雄はただじっと此方を見詰める。
何だか気恥ずかしい。こんなに真っ直ぐに見つめられたのはいつぶりだろう。寧ろ初めてなのではないだろうか。
ひたすら此方を睨むように見つめて考え込む静雄は、やはり何だか愛しい。
こんな試すようなことをしている自分の醜さが恥ずかしくなり、本当は何でもない、と弁解をしようとした時だった。

唇に、柔らかなものが触れた。
それは音もなく、臨也の唇にその暖かな温度と優しいほどの感触だけを残して離れた。

「……」

思わずぽかんとしてしまう。同時に、体温が跳ね上がるように上昇した。
静雄にキスされた。臨也からねだったのではない、突然のキス。
呆気にとられる臨也に、静雄は顔を歪めて言った。
――いつもの、不服そうな顔で。

「…手前が、したそうだったからしてやったんだ」

…どういうことだ。
したそうだったから、だからした。別に自覚は無かったけれど、もし本当に自分が物欲しげな顔をしていたのなら、それは酷い恥知らずなのではないだろうか。

「…ねぇ、シズちゃん」

「あ?」


「シズちゃんは、俺とキスするの嫌?」


紡ぎ出した、胸に蟠り続けるその言葉。
静雄は臨也の言葉に、やはり顔をしかめた。
やっぱり嫌なのだろうか。今の口付けも、俺が物欲しそうだったからしてくれただけなのだろうか。
ズキズキと胸が痛みだす。俯けば、静雄は掌を臨也の頭に乗せて、無造作に撫でた。大きな手だった。

「嫌じゃ、ねぇけど…」

「…けど?」

先を促すように反芻すれば、静雄は黙り込んだ。
やっぱり。泣き出しそうな胸中の声が、唇を突こうとしたと同時。

「っああもう、何なんだよ手前は!!」

「は…!?」

突然叫んだ静雄に、言葉は弾け飛んだ。
目を丸くする臨也に対し、静雄はやはり不服そうに顔をしかめて言うのだ。

「恥ずかしいんだよ!
俺だってしてぇけど、手前みたいに器用じゃねぇんだよノミ蟲が!」

――瞬きすら出来なかった。
…ただ、分かったのは。

「ふ…っはは…っ」

「…んだよ、」

シズちゃんは、恥ずかしさすら上手く顔に出せないほど、不器用ってことだ。



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