Novel2

□しかめっ面に甘いキス
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俺の恋人は無愛想だ。


「シズちゃん、キスしよー」

テレビからは明るい笑い声が響く。
そんな中隣同士で座りながら静雄にそう言えば、静雄は臨也を見て目を細めた。
しようよ、と臨也は再び強請るように言い、静雄の唇に指で触れる。
静雄はその指に目を向けると、眉根に皺を寄せて無言になった。
一向に動きやしない静雄に、臨也は深く溜め息を吐く。

「…じゃあいいよしなくて」

そう言って静雄から離れるように座り直そうとして、やっと。

「…何なんだよ手前は」

不服そうに唸った静雄は、臨也に唇を重ねた。


…シズちゃんはいつもこう。
俺が引き下がる様子を見せないと、キスすら満足にしてくれない。
別に隣にいることを嫌がる訳ではないし、不用意に突き放したりすることはない。
けれど、いつも困惑したような、それでいて不満そうな顔をするのだ。
嫌なのだろうか。確かにシズちゃんはそういう甘い雰囲気にするのは下手だし、ふとしたことで機嫌を損ねてしまう。
シズちゃんが嫌なことなら、出来る限りしたくない。いつもの喧嘩は別だけれど。

――嫌なら、素直に言ってくれればいいのに。

思うだけで言葉には出来なかった。
怖いのだ。
嫌だと、触れないでほしいと、覚悟しても胸の痛くなる言葉を突きつけられてしまうことが。



「――って感じなんだよねー…
どう思う?波江さん」

ソファでコーヒーを啜りながら一通り話した臨也に、後ろで書類整理をする波江は顔をしかめてみせる。苛立ちを表したように勢いよく閉じられたファイルが、パンと甲高い音を立てた。

「どうしてホモの相談を私が受けなきゃならないのよ」

「業務ってことで」

「……」

無表情だった顔に露骨に嫌悪を滲ませた波江は、それから冷笑を溢した。

「貴方、嫌われてるんじゃないの?」

「…いや、それは無いと思うけど」

「どうして言い切れるのかしら?貴方は平和島静雄じゃないんだから、分かるはずが無いじゃない」

…確かにそうだ。現に今、静雄がどう思っているのか分からないでいるのだから。
妙に納得してしまったと同時。
酷く、不安になった。

やっぱり、キスもハグも、静雄はしたくないのではないだろうか。
俺が傍にいて何も言わないのは、いてもいなくても変わらないからだろうか。
突き放せば後が面倒臭いと思っているからだろうか。
そんなことは、ない…はず、なのに。

「これでいいかしら」

「…波江さんにだって、シズちゃんの何が分かるっていうの」

低く呟いた声に、波江は口元に笑みを浮かべる。

「慰めてほしいのかしら?」

「――冗談」

そう笑って返したけれど。
胸は不安でいっぱいだった。



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