Novel2

□君が欲しいもの
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生まれるのがその日なら、死ぬのもその日がいい。
決まった日に生を受けて、決まった日に死ぬ。その日を起点に、俺は世界との境を越える。他ならぬ、愛しい人のために。
そんなことを考えるなんて、馬鹿らしくも俺らしいと思った。



どうしてこうなった?
静雄は自身に問いかける。勿論、現状を把握できていないのだから答えなんて出るはずがない。
静雄の家のベッド。紫煙の染み付いた壁に反響する荒い吐息と甘い嬌声。
組敷かれて腰を揺らす臨也の身体は、思っていたよりも生白く、酷く脆いもののように思えた。


発端はほんの2時間前。

「ねぇ、シズちゃん。セックスしよう」

理解の出来ない言葉に、静雄は動きを止めた。
いつもと変わらない喧嘩。追いかけて入り込んだ人気の引いた夕暮れの公園での、不意な臨也の言葉。
目を丸くする静雄を、臨也はカラカラと笑った。

「何そんなに動揺してるのさ。互いに性欲埋め合いましょう、ってだけだろ」

ナイフを指で回しながら、臨也は恥じらいもせずにそう言う。
けれど、こんなの恥じらう恥じらわないの問題じゃない。人としてどうかの問題だ。

「手前、何企んでんだよ」

「失礼だな、何も企んでなんかないっていうのに。人を信じることを覚えた方がいいよシズちゃんは」

「手前だから信じられねぇんだろうが」

毒々しく吐いてやれば、臨也は笑う。まぁね、と自覚している言葉を吐くと、臨也は静雄に歩み寄った。
訝しげな瞳で臨也を睨むも、睨まれた当の本人は気にした様子もなく静雄の目の前まで来ると、その手を取って自らの頬へ添える。
熱を持った頬は温かく、ぎゅうと胸が苦しくなった。

「緊張してる?」

「っ、んなこと…」

「嘘つき」

囁いた臨也は、静雄の指をその薄い唇に咥えた。
あまりに唐突なことに固まった静雄を楽しげに見た臨也は、悪戯好きな子供のような瞳で、けれどどこか妖艶さを孕んだ瞳で、静雄の指をべろりと舐めあげた。
くちゅり、唾液が艶かしい音を立てる。歯を立てながら指を丹念に舐める姿は、酷く心臓に悪い。指まで敏感になる。
最後に吸い上げて、ちゅぷり、という音と共に唇を離した臨也は、得意気に笑った。

「イヤラシイ気持ちになった?」

「手前…ッ」

こんなことをされて、いやらしい気持ちにならない方がおかしい。
…大体、“好きな奴”にこんなことをされて興奮せずにいられる馬鹿がどこにいると言うのだ。

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