Novel2

□臆病者の恋煩い
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「性欲処理なら他をあたってよ!!」

思わず強く叫んだ。すると、静雄は唐突にぴたりと動きを止めた。
まさか静雄が素直に声に反応してくれるとは思ってもおらず、臨也はおずおずと静雄の顔を見上げた。
――その顔は、何処か苦し気で。
いたたまれず視線を逸らした時、静雄が不意に口を開いた。

「…理由も言わず突然別れろとか、訳がわからねぇ」

絞り出すような声。その切なくも聞こえる響きに、思わず言葉を失った。
どうしてこんなにも辛そうな顔をするんだ。今まで、愛しそうな素振りすらしてくれたことも無かったくせに。
何も言えず戸惑う臨也を、静雄はじっと見据えた。真剣な瞳だった。誤魔化してこの場を逃げることすら、躊躇わされるほどに。

「――始めは、好きなんかじゃなかった。シズちゃんをはめるつもりだった」

だったらもう、話してしまえばいい。静雄に今以上に嫌われようと、もう付き合ってもいないのだから関係の無いこと。
それなら話してしまって、静雄から関係を絶ち切ってくれた方がいい。

「でも、シズちゃんが素っ気なくても、キスしてセックスして一緒にいればいるほど、シズちゃんが好きになっていって。
なのに、目的だったはずのシズちゃんは俺のことこれっぽっちも好きになんてなってくれなくて」

視界が霞む。ぎゅうと瞼を閉ざして無理矢理涙を押し込んだ。
けれど、次の言葉を紡ごうとすれば、涙は再び臨也の視界を歪めてしまう。
泣くなんて格好悪い。男が、こんな女々しい理由で泣くなんて。
…でも。

「…辛かった……っ
片想いのまま、ずっとシズちゃんの隣にいるなんて辛かったんだよ…!
…お前の自業自得だ、って、俺だけが好きだなんて、馬鹿らしいだろ?」

でも、それだけ愛しかったのだ。
辛くて切なくて、でもそれに基づくだけの愛しさが存在していたから、嫌われて切り捨てられることが怖かった。傷つけることが怖かった。
俯いたままの臨也に、静雄は無言だった。それ故に余計に、彼の顔を見るのが怖くて。
自分の痛みを隠すように、臨也は嘲笑を溢す。涙は、止まらなかった。

「笑えよ。馬鹿だろって笑って、帰れ。もうこれ以上関わりたくなんか――」

関わりたくなんかない。そう吐き捨てかけた言葉は、
――静雄の唇に呑まれた。

「シズ、ん……」

静雄の舌が、臨也の唇を無理矢理割る。嫌がって首を振るも、静雄は臨也の頬を手で掴み固定されてしまった。
くちゅり、と淫らな音が唇の隙間から零れる。口内をそういう生き物のように蠢く舌は激しく臨也を責め立てるのに、身体に残るのは痛みでも嫌悪でもなく甘ったるい陶酔で。
腕からは簡単に力が抜けて、足もふらふらとしてくる。そうすれば静雄に腰を引き寄せられ、更にキスは激しく深くなった。

「ん…ふ、はっ…ぁ、んゥ……」

くらくら、ふらふら。
このまま静雄と溶けられたらいいのに。感情も意識もなにもかも無くなってしまえばいいのに。
まるで微睡みにたゆたうみたいに、ふわふわと揺れる意識を引き寄せては手放しかけてを繰り返す。

好いてくれてなんかいないだろうに。今まで散々キスをしてセックスをして、切なくなったくせに。
どうして許してしまうんだ。愛しい人が手に入るなら、感情など関係ないとでも言うのか。
そんなのは嫌だ。嫌だけれど。

ゆっくりと静雄に伸ばした指で、そのシャツを掴む。震えたけれど、強く、強く。
――離したくない。傍にいさせてほしい。
性欲処理だって、苛立ちの吐き出し口だって、嫌だけれど。
彼の傍にいられないことは、まるで自分の一部が無くなってしまったように辛い。

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