Novel2

□全てを照らす太陽に、月は動揺するようで。
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それから3日後。粟楠会との仕事も兼ねて、臨也は池袋へ人間観察に来ていた。
仕事を終えて、ようやく人間観察に勤しめる、とスキップで歩いていた時。

「いぃざやくんよぉ…また来たのか?今日こそ殺されに来たんだろ、なぁ?」

苛立ちを露骨に滲ませた声に、臨也は顔をしかめながら振り返った。
そこには、予想通り。

「太陽参上、ってとこかな…?」

「何言ってやがる、とうとう頭おかしくなったのか?」

静雄の目が鋭く細められる。おかしいのはシズちゃんだろ。そう馬鹿にするように笑って、臨也はポケットから折り畳み式のナイフを出した。
太陽なら動かないでくれよ。俺が動き回るのをむやみやたらと照らすのも止めてほしい。

「俺も、いつもシズちゃんとの追いかけっこに付き合ってあげられるほど、暇じゃないんだよ?」

「じゃあ素直に捕まって死ねよ。殺してやるから」

「嫌だよ。痛いから」

ふふ、と笑って見せると、臨也は身を翻して人混みに走り込んだ。
後ろから追ってくる怒号に、これだから太陽は、と苦笑を溢しながら走る。

相も変わらず静雄はしつこい。臨也が走っても走っても追ってくる。
――と、臨也はふと、静雄の手に何もないことに気がついた。いつもは、看板やら自販機やら、酷い時には標識やガードレールを手にしている。
けれど今、静雄は何も持っていない。ということは、いつもよりもスタミナは持つわけだ。
厄介だ、と思ったものの。
…臨也はふと、微笑んだ。

静雄を引き連れたまま、臨也は路地裏へ曲がった。追ってきた静雄も、臨也に合わせて曲がってくる。

「ストップ!!」

唐突な声に、静雄はまるで驚いた猫のようにびくりと止まった。
思わず止まってしまった自分が恥ずかしいのか顔を赤く染めながら臨也へ動き出そうとした静雄を再び声で制すると、臨也はゆっくりと静雄に歩み寄った。
静雄はまるで、よく躾けられた犬のように固まっている。
そんな静雄の目の前に立つと、臨也は静雄を見上げた。そういえば、静雄の方が10センチ近く背が高かったっけか。

「シズちゃんは太陽なんだから、こうしてじっとしててよ」

こうしてる方が本物の太陽みたい。そう馬鹿にしたように言えば、静雄は眉間に皺を寄せる。

「んだよその、太陽とか。意味が分からねぇ」

不機嫌に言った静雄の周りを、笑みを浮かべながらくるりと回った。警戒心を解かない静雄は、臨也の動きに合わせて視線を巡らせる。
そんなに警戒しなくても、痛いことは何もしないよ。そう言って、爪先立ちをすると静雄の顔を覗き込んだ。
僅かに動揺を滲ませた静雄に、臨也は思わず心中で微笑んだ。
普段は言うことなど何も聞かないくせに、何でだか今日は聞き分けがいい。いつもと違う俺の対応に動揺でもしているのか。
不意打ちに弱いなんて、シズちゃんも案外人間らしいところもあるものだ。

「シズちゃんは眩しすぎるってことだよ。そんなに俺を照らさなくたっていいのに」

「…?」

首を傾げる静雄を、鈍感だねぇ、と笑った臨也は、くるりと踵を返してゆっくりと歩を進める。
何だよ、と苛立たしげに唸った静雄に、秘密、と笑って、臨也は気分良くこの場を去ろうとする。

――しかし。

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