Novel2

□全てを照らす太陽に、月は動揺するようで。
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「終わったわよ」

疲労と苛立ちを全面に押し出した声と共に机に置かれたファイルの山に、臨也は朗らかな笑みを浮かべて、ありがとう、と返事をした。
部下にあたる波江が腹を立てるのも無理はない。今日は予定があるから早く終わりたいと言った波江に、時間ギリギリまで資料集めを頼んだのだから。
本当にふざけてるわ。嫌悪を滲ませて吐き捨て、帰宅準備を始めた波江に反して、臨也はニコニコと笑う。

「悪かったね、急いでるところを」

「だったら早く終わらせなさいよ」

毒々しく言いながらも、波江は帰宅の準備を終えるとコートを羽織る。
面白い。きっとこの後、最愛の弟の家でも訪ねるのだろう。それを分かっているからこうして手を出しているわけだ。

「これでも気は使ってあげてるんだよ?本当は今コーヒーが飲みたいけれど我慢してるんだから」

あえて腹を立たせてみるのも案外楽しい。これだから人間が大好きなんだ。
まるで道化師のように笑みを顔面に貼り付けたまま言う臨也に、波江は扉に手をかけながら一言、汚らわしいものを蔑むかのように言った。

「貴方なんか、平和島静雄に殺されればいいのに」

それだけ言って、波江は扉の向こうへ消えていった。
波江の言葉に笑いながら、それは無理な注文だ、と大きく言って身体を逸らす。
自分も疲れた。本当にコーヒーでも飲もう。
そう思いキッチンで楽なインスタントコーヒーを作りながら波江の剣幕にほくそ笑んでいると、ふと昨日の問答が頭を掠めた。

『つまり、静雄くんは太陽なわけだ』

そう笑った新羅の笑みは、他人の苛立ちを楽しむ自分の笑みとは違う。純粋に自分の考えを他人に伝えることを楽しんでいる笑みだ。
まぁ、新羅がそういう奴だということは昔から知っているけれど。

あいつが太陽か。確かに、強ち間違ってはいない。けれど、少し眩しすぎやしないだろうか。自分はもっと暗躍したいのに。
けれど、今更文句を言っても意味はない。静雄に見つかれば、いつだって追いかけられるのだから。

「太陽なら動くなよ…」

なんて面倒臭い太陽なんだ。
苦笑と共に呟いて、臨也は波江の集めた資料に目を通し始めた。


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