Novel2

□全てを照らす太陽に、月は動揺するようで。
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もし太陽が無かったら
月は存在を知られることも
許されないんだよ。


「いぃぃざぁぁやああああ!!」

耳の痛い怒声が、池袋に響き渡る。その声を背中に浴びながら、臨也はナイフを片手に街を走った。
池袋で目にする光景としては、明らかに似つかわしくない喧嘩。それでも実際に起きているのだからどう否定をすればいいのか。

「いい加減、もっと大人になったらどうかな?いっつも同じような罵声しか言われないから、慣れちゃうよ」

「うるせぇええええ!!」

本当に騒がしい奴だ。そんなだから、周りから怖がられるというのに。
そんなことを思いながら、静雄を撒くために速度を上げた。



「いやぁ、セルティにはいつもお世話になってるよ、本当に」

「そうやって僕の大切な大切な大切なセルティに非合法なものを運ばせるんだから、君は」

新羅の溜め息混じりの声に、まぁね、と臨也は笑いながら返した。

今日池袋を訪れた目的は、運び屋をするセルティに依頼をするためだ。静雄に追いかけられて予定していた時間を遅れてしまったが。
平和島静雄は本当に面倒な奴だ。今までどれ程奴に邪魔されたか。
まぁ、発端はどちらだと問われたら、不利なのは自分だとは思うけれど。

「で、また今日も喧嘩したって?」

「そうだよ。今は何もしてないっていうのに」

「今はって…積年の恨みでしょ。そんな数年で落ち着くものじゃ無いんだよ」

馬鹿にしたようにカラカラと笑った新羅が恨めしい。
人事だと思って、と顔をしかめていれば、新羅が楽しそうに口を開いた。

「でもさ、本来暗暗裏に動くはずの情報屋の君まで、静雄くんに追いかけられているお陰で街で目立ってるじゃないか。
ナイフを持って黒ずくめで、平和島静雄に対抗できる数少ない人間、ってところ?」

「…何それ。嬉しくないんだけど」

冷笑を溢して言うも新羅は全く動じることはなく、自分の世界に浸るように手にしたマグカップを揺らした。冷めかけたコーヒーがちゃぷりと音を立てる。

「つまり、静雄くんは太陽なわけだ」

「太陽?で、何?俺はシズちゃんに照らされてるとでも?」

臨也の冷めた声もさして気にしていないのか、そういうことさ、と満足げに頷いた新羅はマグカップを一口呷り、ふふんと得意気に笑う。

「臨也、君は月だ。存在は小さくないのに、照らしてくれるものが無ければ肉眼では気付かれもしない。静雄くんがいるから、存在を知られることを許されるんだ」

「…酷く迷惑な太陽だこと」

「でもそれが君たちさ。日食したり月食したり、互いに影響を及ぼしながらね」

新羅の至極楽しそうな声は、やっぱり気に食わない。
はいはい、と適当に返事をして、臨也は新羅の家を出た。



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