Novel2

□※愛惜
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「ねぇ、シズちゃん
私とセックスしようよ」

あまりに唐突に紡がれた言葉に、思考も身体も停止した。
いつにも増して強い風にばたばたとはためくセーラー服の鮮やかな色合い、それよりもさらさらとしなやかに揺れる艶やかな黒髪が、やけに目に残る。
昼下がり、半年前の寒さがようやく戻りはじめた、9月の末のことだった。



「あっ、ひ…ゃ、ああっ、あ!
しずちゃ、ん!いっちゃぅ…っ」

甘ったるい声が、静雄が揺らす腰の下で跳ね上がる。
静雄の昂りをぎゅうぎゅう締め付ける内壁は熱く、突き上げる度に離さないとでも言わんばかりに卑しく静雄を掴む。
ローションでぐちゅぐちゅと艶かしい音を立てる接合部の熱さに快楽へ身を委ねながら、静雄は自分の絶頂の近さを感じていた。

そう、臨也の言葉はあまりに唐突すぎた。
いつも通り門田と岸谷と昼食をとり、そのまま些細な言い合いが喧嘩に発展し、授業などそっちのけで暴れていたそんな時。
セックスをしようなどと、臨也が笑って言ったのだ。
勿論断りもした。付き合ってもいないのに、況してや喧嘩相手なのに、どうしてそんなことを頼むのだ、と問いかけもした。お世辞を抜きにしても、臨也はその辺のモデルにも引けをとらないほど、眉目秀麗、明眸皓歯な顔立ちをしている。
けれど臨也は、言ったのだ。

「シズちゃんなら、後腐れなしでそういうことできるかなって。どうせいつも喧嘩しかしてないんだしさ。あー、大丈夫。ちゃんとコンドームもあるから。
大丈夫、私慣れてるし。童貞なシズちゃんよりはね」

まるで当たり前のように軽い口調で言った臨也は、ねぇ、と囁いて静雄の唇に人差し指を乗せた。
動揺してその手すらはね除けられないままの静雄ではあったけれど、それでもどうにか問いかける。

「俺は、手前は好きじゃねぇ…そんな奴とそんなことして、どうするんだよ…」

少なくとも、静雄にとっては大きなことだった。
臨也が今まで何人の相手と身体を交えてきたかは知らない。けれど、悔しいが臨也の言う通り、静雄はまだ童貞だ。女の裸を見たのなんて、小さな頃一緒に風呂に入った母親くらいのもの。免疫など全くない。
セックスは、好きな相手とするものじゃないのか。相手を受け入れる女なら、尚更。
そう思う静雄に、臨也は笑いかけた。いつもの殺意すら湧く笑みとは違う、ほんの少し胸を締め付けるような笑みで。

「愛さなくていいよ、愛してないから。
身体だけでいい。欲求不満なの」

誘うように囁いた臨也は、唇を静雄に重ねた。柔らかな感触は、勿論味わったこともなく。
すぐに離れた唇は綺麗に弧を作り、静雄を甘やかす。

「未来に彼女が出来たときのために、練習台になってあげるね」

何を考えているんだ。馬鹿じゃないのか。俺を散々言ってきたのはお前だろ。
言いたいことは山ほどあったけれど、再び重ねられた唇に、そんな戸惑いは流された。


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