Novel2

□※Disease
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「シズちゃんの言うこと、何でも聞くから!」

――思わず叫べば、静雄はようやく椅子を振り回そうとした手を止め、すとんとそれを下ろした。
にやり、と溢された意味深な笑顔に――臨也は後々、自分の発言を後悔することになる。


その日もいつものように池袋に来た臨也は、泊まりを兼ねて静雄の家に遊びに来た。
静雄の家には来慣れたもので、大抵のものは何処にあるかも知っている。多分、油断している隙に通帳やら現金やらを盗むのも難しくないだろう。…そんなことはしないけれど。
そして勿論、臨也と静雄はそれに値すべき仲である。

つい先刻の台詞を叫ぶに至るまで、僅かばかり時間を遡ることとなる。


静雄が風呂に入っている間、先に入っていた臨也は水でも飲もうと冷蔵庫を開けた。
…と、この辺りで人気のケーキ屋の箱が冷蔵庫にあるのに気がついた。
どうせ自分が食べるために買ってきたのだろう。彼は見た目からは想像できないほどに甘いものが好きだ。
箱の中を見れば、一日限定300個というプリンが三つ入っていた。
どうしてそんな中途半端な数なんだ…そう考え出てきたのは、静雄の上司と後輩の存在。確かに三人だから丁度だ。女が甘いものが好きなことなどよくあるし、静雄がプリンの話をしなかったあたり、辻褄があう。

…俺は恋人なのに、仕事仲間優先かよ。
思わず抱いた言葉に、臨也は自らにも苛立ちながら、そのうちのひとつを勝手に取った。
食べてやる。何処の焼きもち焼きなんだか、それは自分でも思う。
けれどやはり気に入らなくて、勝手に開けると味わうのもそこそこに、臨也はプリンを平らげた。

――そして、風呂を上がってきた静雄に見つかり、プリンひとつで喧嘩になる。
確かに自分に非がなかったとは言わない。けれど、それを認めるには抵抗がある。それは、同僚優先な彼を許すことになるではないか。
独り占めしたい、のに。

「やだよ、謝んないから」

「はぁ!?手前人のプリン勝手に食っておいて何言ってやがる!俺が三日かけて一つずつ食べようと思ってたのに!」

…え?思わず声が漏れた。
静雄は息を荒くしながら、臨也へ経緯を話す。
まさか、想像もしなかった経緯を。

「一人二つまでだからヴァローナに頼んでついてきてもらって、一つはバイト料としてあいつに取られたけど、残りは俺のものだったのによ…!」

臨也は、目をしばたたかせることしか出来ない。
結局、初めから全て静雄の口に入る予定だったのだ。同僚の口に入るよりは幾分安堵するが…食い意地の張った奴め。
しかし、静雄が勢いに任せて椅子を持ち上げた。やばい、と思って、咄嗟に口を開ければ。

「シズちゃんの言うこと、何でも聞くから!」

…そして、事は冒頭に戻る。
口を飛び出たのは、不本意ではないとしてもあまりにその場しのぎに似た言葉で。
…しかし言ってしまったが最後、静雄に限って見逃してくれるはずがない。こんな笑みでは、余計に。

「シズちゃ、んわ!?」

かと思っていれば、突然静雄の腕に抱え上げられる。
何処に行くのかと思えば、放られたのはベッドの上。暴れる隙すら許さず、静雄が上から被さってきた。
ここで何をさせる気だ。何でも聞く、とは言ったものの、まさかこんな展開になるとは思ってもみなかった。
静雄を睨むように見上げれば、彼は口を開いた。まるで、飢えた獣が獲物を見つけたような顔をして。


「俺の目の前で、一人でヤれ」


「…はい?」

思わず目を丸くした。
この状況下なら、言いたいことは痛いくらい分かる。しかし、理解したくない。
だがとぼけようにも、顔がじわじわと熱くなってきている時点で、赤らんでいることは間違いないだろう。

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