Novel2

□道化師たちのシエスタ
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静雄はフォークを手に取ると、ハンバーグを口に運ぶ。柔らかな食感と肉汁。間に挟まれたチーズが独特の香りを放って鼻孔を豊かな匂いで染めていく。

「美味しい?」

「ああ。うめぇ」

「そう、それは良かった」

にこ、と素直に笑う臨也に、静雄は喜びを感じる反面、申し訳無くなった。
いくら誕生日だからと、何でも施されすぎだ。臨也の誕生日の時、自分がここまで尽くせる自信が無い。
そう考えながらも臨也の料理を口に運んでいれば、どうしたのしかめっ面して、と臨也が問いかけてきた。

「何か駄目なことあった?」

「いや、別に大したことじゃねぇから」

「……俺、そんなに頼れない?シズちゃんが素直に打ち明けられないくらい?」

赤茶のビー玉のような透ける瞳が静雄を映して、不安そうにくるりと揺れた。
ああもう、臨也がそんなに不安がることなんか無いのに。変なシズちゃん、と笑ってくれればいいのに。

「…なんか、してもらってばっかりで悪いじゃねぇか」

「…へ?」

「臨也にしてもらってばっかりで、俺が同じだけ返せないだろ。だから、何か悪いなぁ…と、か」

言っているうちに気恥ずかしさが沸いてきて、静雄は頭を掻く。きょとん、と目をしばたたかせた臨也は、それから柔らかい笑みを溢した。
何だ、そんなことかぁ。臨也も少しだけ恥ずかしそうに顔を俯けて、フォークを小さく振る。
慣れない空気に互いに気まずくなって空笑いをするも、逆に更に話し辛い雰囲気になる。
やっぱり言わなければ良かったか、と今更になって思っていれば、臨也がその空気を紛らすように口を開いた。

「べ、別に、いいだろ。今日はシズちゃんの誕生日なんだから」

「でも、臨也の誕生日に同じだけしてやれる気がしねぇし」

「何言ってるの」

ふ、と笑った臨也は、頬を赤く染めたまま静雄を見詰めて唇を開いた。

「シズちゃんはシズちゃんなりのプレゼントがあるでしょ。俺がケーキ作ったり料理作ったりするのは、それが俺にできるプレゼントだから。シズちゃんは、たくさん抱き締めて、たくさんキスしてくれる。
俺はそれが、すごく嬉しいんだよ」

ね、だから素直に俺に施されててよ。
そう言ってまた俯いた臨也は可愛くて、今すぐ抱き締めたい衝動にかられた。
けれど、今は臨也の料理を食べるのが優先だ。
そうだな、と返せば、そうなんだよ、と頷く臨也が、愛しくてたまらなかった。

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