Novel2

□道化師たちのシエスタ
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「シズちゃん?」

不意に頭に響いた声に、静雄はハッとする。声の方へ顔を向ければ、耳元に顔を寄せていた臨也との距離は、僅か数センチ。
互いに驚いてすぐに顔を逸らした。近づいてきた張本人の臨也を横目に見やれば、頬をほんのり赤く染めていて。
ああ、可愛い、なんて、普段は一欠片も考えないことを思う。
そうして、触れたい、とも。

静雄は腕を伸ばすと、その赤らんだ頬を捕らえる。掌の温度に震えた臨也は、それでも状況を理解して瞼を閉ざした。
――小鳥が啄むような、触れるだけのキス。けれど触れあった柔らかさは紛れもなくキスだと唄う。
唇を離せば目が合って、臨也は唇を結んだまま笑みを溢す。その愛しいばかりの微笑みを独り占めでもするように、静雄は臨也の唇を再び奪った。


その後、臨也は昼食を作ってくれた。
すっかり二人で食べに行こうと思っていた静雄だったが、臨也の手料理は美味い。折角だからケーキのお返しとして奢ってやりたかったけれど、断るのも惜しかった。
臨也の料理中は、臨也と話をしながら時々その手捌きの鮮やかさを見て、静雄も楽しんだ。
出来上がった料理は普段自分が作るものよりも幾分と美味しそうで、腹が減る分だけ食べるのが勿体なくも思えて。
そんなこんなで料理を眺めていれば、エプロンを外しながら此方へ来た臨也はニコリと笑う。

「シズちゃんの好きなものばっかりだろ」

「ああ。食うの勿体ねぇ」

「食べてよ、冷めたらその方が勿体無いから」

ね、と漆黒の髪を揺らした臨也は、静雄の向かい側に座ると手を合わせて、いただきます、とひとつ呟く。つられて静雄も手を合わせれば、臨也は満足そうにまた笑った。

…何だか、新婚夫婦みたいだ。イチャイチャラブラブ、きっと明日の俺がこの光景を見たら顔をしかめるだろう。
確かに、すこし気恥ずかしいような気もするけれど、別に他人がいるわけでもない。だったら好きなだけこの嘘を楽しみたい。

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