Novel2

□道化師たちのシエスタ
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俺たちには一年に二回、丸一日嘘を吐き通す日がある。
日常とは欠け離れたその一日が、煩わしい程に待ち遠しく思うようになったのはいつからだったか。
そうして、その二回のうちの一回は、1月28日、俺の誕生日にやってくる。


「シズちゃん、お誕生日おめでとう」

チャイムの音に玄関まで出てすぐかけられた言葉に、静雄はふわりと微笑む。
玄関に立つ臨也は、その整った顔を甘く綻ばせて、照れ臭そうに再び、おめでとう、と囁いた。
そんな臨也を家に招き入れながら、静雄は冷たくなった鼻をぐすぐすと鳴らす臨也に問いかける。

「それにしても、わざわざ朝っぱらから来るなんてな。せめてもう少し暖かい時間になってからでも良かっただろ」

そう言ってやれば、臨也は唇を尖らせて静雄を上目に見やる。

「シズちゃんは、俺に会いたくなかった?ケーキも作ってきたのに?」

「なわけねぇだろ。…ケーキ抜きにしても、だ」

「じゃあケーキいらない?」

「要る」

即答する静雄を、臨也は楽しげに笑った。きらきらと花が咲いたような笑みを見るのは、臨也の誕生日以来。思えばもう半年以上経っている。
待ち遠しいからこそ更に恋しく愛らしく思うのだろうか、と一人思いながら、臨也から受け取ったケーキを覗き見て微笑した。

一年に一度ずつの誕生日。
その365分の2だけ、二人は恋人同士になる。
この馬鹿げたような関係を始めたのは臨也だ。数年前の1月28日、臨也が突然家に押し掛けてきた。
始めは意味が分からなかったが、その不思議な感覚も受け入れれば心地が好くて。
そうして毎年、互いの誕生日だけ二人は甘ったるい関係になった。
正直臨也が考えていることは分からないが、理解など出来ないことも分かっているから、何の気なしにこの日を待つ。
ただ確かに、愛される感覚は嬉しい。
だからだろうか、いつしか楽しみで仕方がなくなっていたのは。

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