Novel2

□初茜に唇を
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「会いたい」


『――、』

途端、臨也は黙り込んでしまった。
まさか嫌だったとか?それとも、断らざるを得ない理由が?
頭をぐるぐる回った言葉は結局声にならなくて。

「…駄目か?」

どうにか低く問いかければ。
――電話越しの臨也は、唐突に笑いだした。
何事かときょとんとしていれば、臨也が不意に甘い声になって口を開き。

『俺もね、会いたかった』

どくん、と心臓が高鳴った。
――ああ、もう。

「分かった。今何処にいる?」

『今、池袋歩いてる』

――可愛い。可愛くて仕方がない。

「どの辺りだ?」

『えっと、シズちゃんの家から一番近いところのファミレス過ぎて、その先の和食店の方に向かってる』

――手を繋ぎたい。抱き締めたい。

「…いた」

――触れたい。触れたいのだ。

向こうから歩いてきた携帯を持つ臨也と目が合い、その頬は一瞬で嬉しそうに綻んだ。
通話を切れば、臨也が此方へ駆け寄ってくる。相変わらず真っ黒な格好の臨也は、頬と鼻先を鮮やかな赤に染めて、嬉しそうな笑みを隠しながら静雄を見上げた。

「奇遇だね」

そんな臨也へ静雄は腕を伸ばすと、その細い身体をぎゅうと抱き締めた。壊さないように、けれど離れないように、強く、優しく。
臨也は驚いた声を上げて、赤い顔を更に赤くする。まるで、太陽の昇る前の茜の空みたく綺麗だと思った。

「ちょっと、シズちゃん!?」

「……会いたかった」

――それから。

静雄は臨也から少し身体を離し、その顎に指を添えた。煌めく瞳が静雄を映し出し、動揺と期待にくるくると動く。

―――ああ、キス、したい。
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