Novel2
□初茜に唇を
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――静雄は、ふぅと息を吐くと、微笑った。
「わかった。ありがとうな、幽」
「お勘定はするから、そのまま折原さんの家に行っても良いからね」
静雄は残りの食事を急いで食べて座敷を立つと、幽にひらりと手を振って足早に座敷を抜けた。
そのまま店を出て携帯を出すと、臨也へ電話をかけた。
4度目のコール。それ断ち切って電話に出たのは、聞き慣れた澄んだ声。
『もしもし、え、シズちゃん…?』
「…あけましておめでとう」
『おめでとう……』
電話越しでもわかる驚いた様子に、何だよ、と疑いつつ尋ねれば、そう言いたいのはこっちだ、というのを滲ませた声が返ってきた。
『シズちゃん、幽くんと食事に行ったんじゃなかったの…?』
「そうだけど、幽が大晦日過ごせれば満足だから、手前に電話してやれって。…まぁ、俺も電話したかったからしてるんだけど、な……
臨也は仕事終わったのか?」
『あ、うん。年越し前に、どうにか』
そんな問答をしてから、互いに黙り込んでしまった。二人を繋ぐ小さな機械からは双方から響く雑踏の音があるだけで、ディスプレイの通話時間だけが増えていく。
――その沈黙を断ち切ったのは、臨也だった。
『…それなら、今は予定ないの?』
「ん、ああ。幽とは別れた」
『……じゃあ、』
臨也はそこまで言って、黙り込んでしまった。次の言葉を待ち通話口に耳をそばだてるも一向に続きは紡がれず、更にはとうとう、やっぱり何もない、という言葉が紡がれる。
何なんだよ。そう思いながらも、それを雑言としてぶつけるよりも、緊張が勝った。
言おう、という、甘ったるい緊張が。
「臨也」
『ん、…なに?』
僅かに肩を落としたような声。けれどそれに構う余裕もなくて。
静雄は新年初っぱなから勇気を総動員すると、電話の向こうの臨也へ言った。
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