Novel2

□初茜に唇を
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幽の言う通り、静雄は臨也と付き合っている。
とは言っても今年からで、勿論静雄もこんな関係になるとは思ってもみなかった。…自分の気持ちに気づくまでは。
確かに恋人らしく、手を繋いだり抱き合ったりはするようになったが、それ以上は何もない。口付けも然りだ。
ずっと喧嘩相手だったせいか、至極恥ずかしくなってしまう。手繋ぎも抱き合いも互いに真っ赤になりながらしたものだ。
――特に臨也なんかは、緊張すると表情をくるくる変えて、可愛らしいと言ったらこの上ない。

「年明けてからでも、折原さんの家行ってみたら?俺は大晦日一緒に過ごせて満足だし」

「…別に良いだろ、多分」

「…そうかな」

そうに決まってる。そう、口を開こうとした時だ。

流れるような音楽が鳴り響いて、12時を告げた。
ああ、年を越したのだ、とその音を聞いていれば、丁度食べ終わった幽が、電話しなよ、と急かした。
…でも。
でも、って、兄さんはいいかもしれないけど、折原さんは仕事をしていたわけだよ?年の瀬まで。
何時にもなくよく口を動かす幽に、静雄もうう、と小さく唸る。
だって、申し訳ないじゃないか。確かに、臨也と過ごしたい気持ちはあった。けれど、今は幽といるのだ。わざわざ電話をしてまで恋人と話すのは、迷惑というものじゃなかろうか。
考え込んで視線を落とせば、は、と溜め息にも似た吐息を溢した幽は、やはり無表情で言った。

「俺は、折原さんのことを話してる兄さんが好きだよ。嬉しそうだから。」

「…そう、なのか?」

「うん、すごく嬉しそうに話す。それだけ好きなら、俺は兄さんに折原さんと少しでも一緒にいてほしい。
だって、幸せそうな兄さんが好きだから」

「幽……」

そんなに表情に出ていたのだろうか。表情が乏しいとよく言われるのに。相手が、幽という唯一無二の存在だからか。

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