Novel2
□初茜に唇を
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「兄さん、おいしい?」
「ああ。初めてこんな店入ったから緊張してるけどな」
「たまには贅沢してもいいと思うよ」
12月31日。クリスマスが終わり入れ替わるように高まった正月ムードも、ピークを迎えようとしている。
そんな中静雄は、弟の幽と高級和食料理店に来ていた。
去年は幽は大晦日まで仕事があったものの、今年は無かったため、こうして誘われて来慣れない店に来ているわけだ。
今年もあと数十分。テレビでは毎年恒例の歌番組でもやっているのだろう。去年はそれを見ながらインスタントの蕎麦を食べていたが、今年みたいな年越しも悪くない。何より、家族と過ごせるのは嬉しい。
「…そうだな。あ、でも金……」
「いいよ。俺の方が稼いでるんだし、兄さんには世話になってるから、そのお礼」
「…ありがとうな」
照れたように笑った静雄へ、幽はこくんと無表情に頷いた。
――しかし、兄である静雄には満面の笑みに見えたらしい。更に嬉しそうに笑って、静雄は漬け物をつまんだ。
「それにしても美味いな。年一回の贅沢って感じで」
「美味しいよね」
それから黙々と食事を続け、気が付けば時計の針は11時57分を指していた。
あと少しで年越すな、としみじみ言えば、不意に幽が口を開いた。
「折原さんは?」
静雄は思わずはたりと止まり、それから困ったように笑う。
「今は幽と来てるんだから、臨也はどうでもいいよ」
「でも兄さん、折原さんと――
付き合ってるんでしょ?」
幽の言葉に、静雄は素直に頷いて見せた。
「でも、臨也は今日も仕事があるらしいし、もし仕事がなくても幽が先だったら幽と一緒にここに来てたよ」
「……」
幽の凝視に、静雄は思わず苦笑を溢した。
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