Novel2

□カゲロウデイズ
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ジィジィと五月蝿い音が耳を刺激する。
嫌になるくらい聞いている音から逃げるようにタオルを被り。

揺らぐ意識は、携帯の着信音に呼び起こされた。
驚いて携帯を取り、相手を確認してハッとする。急いで出れば、不貞腐れた声が溢された。

『シズちゃん遅い。あっついんだけど』

「悪い、寝坊した」

『最悪。デートだっていうのに、何で寝坊なんかするかなー』

「悪かったって言ってるだろ!」

ジィジィ、ジワジワ。電話の向こうからも聞こえる音に、ああ、夏だ、としみじみ思う。
直ぐ行くと告げ電話を切ると、用意をすべく洗面所へ向かった。



二人でただ街を歩いて、たわいない話をして。たったそれだけのデート。
それでも楽しいのは、やはり臨也が愛しいからか。
昼に訪れた馴染みの公園で、飽きるほど話していた。噴水の傍は、やはり何となく涼しいし、臨也が気に入っているカフェで食事を終えて直ぐの場所だからというのもあるだろう。

「手前、この公園好きだよな」

「うん、噴水涼しいし、色んな人がいるからね」

ただ、暑いのが嫌かなぁ。あと、工事の音も五月蝿いし。ギラギラと眩しい光に目を細めた臨也。
――ふと蘇ったのは、昨夜の夢。起きて直ぐは思い出さなかったくせに、不意に彼の姿と蝉の声が重なった。
そう、確かこの公園だった。そうして夢でも、この噴水の縁に腰掛けていた。
夏は嫌いかな。暑いし。
そう呟いた臨也。その膝には、夢の中で臨也が大事そうに抱えていた金色の猫はいない。
――それでも、胸が騒がしくなった。

「…今日はもう帰るか」

「え、まだお昼だよ」

「だったら俺ん家な」

「…別にそれなら良いけど」

二人で噴水から立ち上がり、出口へ歩き出す。車道へ一直線に走る猫もいなければ、それを追いかける臨也もいない。
ただ、確かに臨也は隣にいる。隣で、笑っている。夢は異様に現実味を帯びているから嫌なのだ。こうも不安になる。

そうして、公園を出た。道の先は熱によって陽炎が揺らめいている。
――ふと、回りの人が皆一様に上を向いているのに気がついた。何事かと、静雄も上を向く。

…しかし、それも一瞬だった。

ゴッ、鈍い打撃音。
ガシャアン、鋭い金属音。

唐突に、隣で起こった出来事。
四方八方から、悲鳴が此方へ注がれる。ざわざわと木々がさざめく。

クレーン車から滑り落ちた鉄柱が、杭のごとく臨也を貫き、突き刺さった。

陽炎が揺らぐ。夢じゃない。夢じゃないよ。君が見ているのは現実さ。陽炎は相も変わらず嗤う。嘲笑う。
そして、スローモーションに地面に叩き付けられる臨也。

――眩んだ視界に映ったその横顔は、笑っていたような気がした。



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