Novel2
□カゲロウデイズ
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外は夏真っ盛り。
ギラギラと病気になりそうなほどに眩しい太陽が、アスファルトを、ビルを、容赦なく照りつけている。ただ救いがあるとすれば、噴水の傍は涼しいということか。
見上げた時計台は、午後12時半をさしていた。そろそろ昼飯を食べたい。
それを言おうと隣の臨也を見れば、臨也は膝に乗せた金色の毛並みの野良猫を撫でていた。
静雄も猫は好きだ。好きだが、臨也みたく膝に乗せているとズボンの中が汗で蒸れそうな気がする。
「暑くねぇのか?」
思わず尋ねれば、臨也は素直に、暑いよ、と返した。なら乗せなきゃいいのに。言えば、それは嫌、と一言。
暑いのと猫を抱くのは関係ないよ。猫は好きだから。
そう言ってから、臨也は唸る。猫はそんな臨也を見つめていた。
「でもまぁ、夏は嫌いかな」
暑いのは嫌いだよ。いつも嫌になる。ふてぶてしく呟いた臨也は、猫の背を撫でた。
すると猫は、不意に臨也の膝を飛び降り、公園の出口へ走り出した。それを追って、臨也も走り出す。
元気だな、と思いながらも、静雄も腰を上げた。
「別に猫なら他にもいるだろ」
「あの子は特別。だってシズちゃんの頭みたいな毛の色してるから」
笑って言った臨也は、そのまま公園の外に走り出ていく。陽炎が揺らめくアスファルトに、臨也の足は止まらない。
猫はそのまま、猫の表示なんてない横断歩道へ飛び出した。
人間の描かれた信号は、涼しげな青色の光の瞬きを終える。
危ない。そう思った瞬間には、臨也の姿は煮えるように赤い信号機の向こうにあり。
トラックが白線を目指して走ってきた。
キィイイイ
空気をつんざく音が、静雄の耳に突き刺さる。赤が、信号機よりも鮮烈な赤が空に散って、地面を赤く染めていく。
鉄のなんとも惨い匂いが辺りに広がる。嗅ぎ慣れた臨也の匂いも混じって、広がる。
声が出ない。歩み寄ることも出来ないまま、静雄は立ち尽くす。
アスファルトの熱か、人の熱気か、血の赤か。陽炎が揺れて、静雄を取り残した。
嘘じゃないぞ。お前が見ているこれは現実だ。陽炎はそう嗤って、静雄を嘲る。
悲鳴、車のブレーキ音、酷く騒がしい喧騒、陽炎の声は遠ざかっていく。
ただ耳に痛いほどに響く蝉の音だけが、鮮明に耳にこびりつき、全てを眩ませて、
は、と目が覚めた。
カチカチと一定のリズムを刻む音が、部屋を満たしている。
時計を見れば、12時過ぎを示していた。当たり前に窓の外は暗い。
眠っていたくせに、何だか酷く疲れた気がする。そんなに居心地の悪い夢でも見たのだろうか。それとも、疲れる格好で寝ていたのだろうか。
――ただ、やけに煩い蝉の鳴き声が耳に残っている。
また寝るか。瞼を閉ざせば、直ぐに優しい微睡みに意識は包まれて消えた。
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