Novel2

□悪い日、甘い日。
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――と、不意に静雄が口を開いた。

「…臨也から、好きって言われたことがないんだけどよ、」

「…え、」

言われて気がつく事実。
そうだったっけか、と記憶を遡り…確かに、此方から好きだとはっきり言ったことがないのに気がついた。
告白された時は、いいよ、としか言った覚えがないし、普段の会話でそんなことを話すはずもない。情事の最中も、甘ったるい空気にはなるものの、今更好きだの愛してるだの言わないし言えない。
面倒なことに、恥じらいがなくなることもあれば、恥じらいが増すこともあるのが恋愛ってやつで。

「…今更、良いだろ別に」

「良くねぇ」

「何で」

そんなにずっと向こうを向かれていたら、不安になるだろ、馬鹿。
彼の反応を煽るように身体を起こすも、静雄は振り返りもしなければ口を開きすらもしない。
嫌がらせに背を殴ってやろうかと思ったけれど、身体を交えた後の背に触れるのは何となく恥ずかしく思えて、後ろ髪を引っ張ってやった。

「…何で、って言ってるだろ」

不貞腐れて言ってやれば、ようやく低い声が響きだした。


「俺ばっかりが好きみたいで、…嫌だ」


「え、あ…うん、そう…」

ばっくん、と一際跳ねた胸は、静雄に聞こえていないか心配にすらなった。
口下手なくせに…否、だからか。単刀直入な飾られない言葉を投げかけられるから、どうも調子を狂わされる。

「俺は、鈍いから」

「…うん」

「だから、手前は空気読めとか思ってるかもしれねぇけど」

「……」

「俺は、その読む空気ってのを知らねぇから、言葉じゃなきゃ理解できねぇし」

――嬉しい、と思ってしまった自分は酷い奴なのだろうか。
恋人に想われているのが嬉しいと思うのは、悪いことなのだろうか。
…きっと、言葉じゃ言い表せないのに。

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