Novel2

□悪い日、甘い日。
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「臨也」

呼ばれた声に、臨也はぼんやりしてきた頭を上げた。
そこには、臨也の恋人の顔がある。
誰が聞いても恐れられる、平和島静雄の顔が。


言葉の通り、臨也と静雄は付き合っている。
勿論、初めの頃は仲が悪いなんてものではなかったのだけれど。…その頃から、臨也は想いを寄せていた。
初めて、自身の思考を否定されたその力。少年だったならスーパーヒーローにすら見える人知を超える力は、臨也にとって天敵となり、そしてある種の憧れとなった。
そしてある時恋心に気がつき、諦めたまま数年が経った一ヶ月前、予想外にも告白された。
しかし、高校から良くも悪くも知り合いだ。遠慮がなければ、甘い愛の言葉もない。


そして今、恋人同士のする行為を終えて眠ろうとしていた時、不意に静雄に呼ばれた。

「なぁに?」

間延びした声で尋ねれば、静雄は返事はせずに臨也を抱き締めた。
なぁに、痛いよ、と静雄に言うも、悪い、と言いながら腕を緩めない。
どうせ今どんなに離せと喚いても、よっぽどのことを言わない限りきっと彼は離してくれない。
まぁ別に彼の腕は嫌いじゃないし、寧ろ温かい胸に埋まっているのは好きだ。特に無理矢理離させる理由もない。

「臨也」

「ん?」

再び呼ばれ小さく返事をすれば、静雄の手が臨也の髪を撫でた。
その掌に擽ったくなりながら言葉を待っていれば。


「手前は、俺が好きか?」


唐突な言葉に、臨也は一瞬で目が醒める。まさかそんなことを訊かれるとは思っておらず、胸はばくばくと高鳴りだした。

「何、突然」

「…好きじゃねぇのか?」

寝惚けてるのかこいつは、とは思ったものの、強く抱きすくめられているため顔を窺うことが出来ない。
…なんでそんなこと訊くんだ。そんな、当たり前のことを。

「…好きじゃなくないけど……」

「何だよその、好きじゃなくないって」

良いだろ別に、そう返せば、静雄は黙り込んでしまった。その上、腕まで離してそっぽを向いてしまう。
――何なんだ面倒臭い。シズちゃんは恥ずかしくないかもしれないけれど、こっちは恥ずかしいのだ。
ほんの一ヶ月前は、こんな歯痒い会話なんかしたことが無かった。寧ろ普通の会話すらろくに出来なかった。
なのに、何を言わせようとしているのだ。

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