Novel2

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――その時、不意に腹部にぞわりとした感覚が走った。
それが静雄の指だと気がつき、一瞬目の前が眩み…それから、ハッとする。
駄目だ。このまま進んでは、気付かれてしまう。俺の犯してきた滑稽極まりない行為を。
…しかし、腹部をゆっくりと撫でていく指は酷く淫らで、そのうえ愛情を帯びていた。性感帯に触れられているわけでもないのに、皮膚までも快楽を察知しているかのように肌が粟立ち、下腹が疼く。
ふと垣間見た静雄の顔は酷く官能的で。
どくん、どくん、胸が煩い。

「だ、め…シズちゃん、っあ…ふ、ぅ…ん…ひぅ…」

腹部を上った指が胸の飾りを捕らえ、くにくにと捏ね回した。肌だけで震えるのに、そんな場所を弄られれば反応しないはずがない。
周りをぐるぐると刺激され、かと思えば爪を立てて摘ままれ、鈍い痛みに震えれば先端を優しく撫でられる。
執拗な愛撫に腰が浮く。次第に熱を持っていく身体は堪えようがなく、乳首だけで射精してしまうんじゃないかとすら思えた。
ただ零れる吐息は熱く。抵抗の効果は皆無に等しく、芯をもった蕾を口腔に含まれた途端、臨也は肩を跳ねさせて静雄の頭を掻き抱いた。

「ふぁっ、ぁ…!っん、んぅ、やだ…だめぇ…め…、はぅっふぁ…」

こんなに気持ちいいものだったのか。
ああ、これは愛しい人にされているからか。想像なんかとは比べ物にならない。
熱くて、強くて、甘くて、震えるほどに気持ちがいい。
このまま、奪われてしまいたい。意識すら失せるほどの深みに堕ちてしまいたい。

――不意に、静雄の手が臨也の下肢に伸び、布越しに触れた。
びくりと大袈裟なほどに跳ね上がった臨也は我に返る。
…これ以上はしてはいけない。駄目だ。淫行の跡を見られてしまう。
そう思うのに、下着の中は湿って、固く熱を持って勃ち上がっていた。

「シズちゃん、っ、だめぇ…、これ以上は、んっ、やだ…!」

「嫌だ。止めない。」

違うよ。そんな傷付いた顔をしないでよ。シズちゃんが嫌な訳じゃないんだ。シズちゃんだから嫌なんだ。
だって…

布越しに揉みしだかれ、臨也はくらくらとしながらも必死に抵抗していた。
しかし生理現象に打ち勝てるはずもなく、じっとりと水気を吸った下着が熱を溜める昂りに張り付く。

…その時、静雄の手が臨也のスラックスを下ろした。
途端にパニックになった頭はどうにも出来ず――
下着と共に下げられ、露になった太股に、静雄は目を見開いた。

白く、すんなりと伸びた細い下肢。
その内腿には、鬱血が刻まれていた。
情事をしなければこんな場所に唇を添えられるはずもない。
その赤い痕跡は、臨也の昨日の行為を生々しく主張していた。

一瞬で、頭が真っ白になった。涙すら零れない。
ただ、瞬きすらせずに固まる静雄を見ているのはこの上なく辛くて、このまま死んでしまいたくなった。
その顔を見ないように視線を逸らす。唇を噛み締め、それから震える声を発した。

「――俺は、シズちゃんに抱かれる権利なんか無いんだよ。言っただろ。
俺は身体を売って情報を得るような最低に馬鹿野郎なクズなんだよ。
だから…こんなに汚い俺とセックスでもしたら、シズちゃんが汚れる、から…」

「…何言ってんだよ」

低い声が耳元で呟く。静雄の身体が足の間に割り込んだかと思えば――その体温が、臨也の身体を包み込んだ。
頭が真っ白に塗り潰される。このままではいけない、と思うも、何故そう思うのかも分からなくなる。
とにもかくにも、この体温を突き放さなければいけない。身体が発する警告に任せて静雄を押し退けようとするも、その腕は一層強く臨也を抱き締めた。
その腕に泣きそうになりながら、それでも抵抗を続けていれば。

手前は綺麗だ

そんな声が、臨也の鼓膜を震わせた。
何処か苦しく響いた声。怒気が込められているわけでもなく、泣訴されているわけでもない。
重なった胸からは、秒針よりも早く時を進める音が間断なく臨也の胸に鼓動を伝える。
それだけで、身体は縛られたように動かなくなった。

――このまま、奪われてしまっていいだろうか?

抵抗する腕から、力が抜けた。



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