Novel2

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どれくらいこうして寝ていただろう。
話すと楽になるとは言うものだが、その通り、臨也は気がつけば寝ていた。
保険医は放課後用事があり帰り、用務員が鍵を閉めに来るまで寝ていていいと言われた。自然に起きたということは、まだ閉めに来ていないのだろう。時計を見たところ、あと一時間ほどは余裕がある。

――と、傍に誰かいるのに気がついた。
ずっと居ただろうに、気付いた瞬間に驚く自分も何だかな、とは思いつつも、目を向ければ。
一瞬、呼吸が止まった。


「――シズちゃん」

紡ぎ出された声は情けなく震える。
――そこには、普段見ることのない真剣な表情の静雄が座っていた。
何でいるの、と尋ねれば、手前が起きるのを待ってた、と予想通りであり望み外れな答えが返ってきた。
何で待っていたのだろう。何を話す必要があったのか。謝罪でもするつもりだろうか。キスをしてすまなかった、と?それとも怒るつもりか。断りやがって、だとか理不尽なことでも言うつもりか。
――しかし、静雄の唇から紡がれたのは、臨也の想像の上を行った。


「やっぱり、手前が好きだ」


「――ッ」

門田に話したことを聞いたのではないのだろうか。その時点で、空気を読めなかったのか。俺が、彼と付き合うことを望んでいないということを。
ずくん、と胸が痛みを訴えた。
出来るなら、その手を取りたい。その胸に飛び込みたい。好きだ、と泣きたい。
でも、駄目なんだ。そんなことを望んではいけない。

「あのさ、俺はシズちゃんと付き合えないんだよ。
ドタチンから聞いてないの?勿論、内容は隠すつもりで言ったけど…俺は君とは触れ合えない。駄目なんだよ。
俺は、何も知らないシズちゃんと付き合うことは出来――」

突然覆い被さった静雄の影が、臨也を包んだ。暖かくて優しい腕。それが余計に臨也を苛む。
触れられていたい。抱き締めてもらいたい。この腕のなかで、瞼を閉ざしてしまいたい。
――でも、
俺なんかが触れてはいけない。抱き締めてもらってはいけない。…彼を汚してしまう。自らの内の感覚だとしても、それは許せない。許してはいけない。

離してよ、そう叫んで押し退けようとした腕には、力が入らなかった。もっと力はあるくせに、本能がそれを邪魔する。
感じていたい、安らいでいたい、と。
許せない。そんな自分が、何よりも憎くて仕方がない。どうして突き放せないんだ。どうして甘えようとしてしまうんだ。
嫌悪から、涙が零れた。

「止めろよ…!俺は、汚れてるから…ッ、シズちゃんなんかが触れたら…!」


「手前は汚れちゃいねぇ」


どきん。不用意にも胸が高鳴った。
彼は何も知らない。…それでも、その言葉は胸に響いて反響する。認めて、その上で愛してくれるはず、と錯覚してしまう。


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