Novel2

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一瞬、何が起きたか分からなかった。
つい先刻起きた、夢のような現実。
その現実を否定するかのように、臨也は静雄の肩を突き飛ばす。

「どうしてっ、
…どうして、キス、なんか…!」

極度の緊張からか混乱する現実からか、息は酷く乱れて、震えた声は途切れ途切れに紡がれた。

その言葉の通り。
静雄は、臨也にキスをした。

いつもの喧嘩のはずだった。
振り回された掃除用具入れから不意に投げ出された箒に足を取られてバランスを崩せば、壁に押し付けられた。
激しく高鳴った胸は緊張だったのか悔しさだったのか。どう抜け出してやろうか、と思った矢先の出来事。

静雄が硬直する臨也の耳元に手をつけば、どん、と鈍い音が鳴り、まるで金属バットで殴打したかのようにコンクリートの壁の一部が石や砂と化して地面に転がった。
切れ長な瞳が、臨也を真っ直ぐに射抜く。
感情が読めない。普段の彼とは全く違う、冴え渡った表情。
逃れたい一心で身体を捩っていれば、不意に静雄が口を開いた。


「好きだ」



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