Novel2
□何故。
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「先に飯食うか」
「えー、待ってようよ、2人だけのお昼とか寂しいだろ」
――もし、その“2人”が、臨也と門田だったらそんなことを言うのか?
…心中で呟いた自分は、醜い。
それが顔に出ていたのだろうか。視線を感じて臨也を見れば。
――ああ、この瞳だ。まるで愛しい誰かに向けるような…
不意に顔が近づく。
長い睫毛が伏せられていくのがスローモーションに見え、その柔らかな感触が唇に触れた。
ほんの一瞬。しかし、まるで予想もしなかったその行為に、静雄は見る見る赤くなる。
…初めてのキス、で。
臨也はそんな静雄を、はにかんで笑った。
――でも、分かっているのだ。この唇は、自分自身に向けられたものではないことを。
…でも。
「臨也」
「ん、なに、シズ――」
「待たせたな」
唐突に聞こえた声に、静雄と臨也はばっと振り返った。互いに理由は違ったのだけれど。
見慣れた姿に、静雄はわずかな胸の痛みを呑み込む。
臨也はまるで弾かれたように立ち上がると、門田に抱きついた。
「遅いよ、ドタチン」
「新羅が先生に用があって一緒に職員室に行ってたんだよ。先に食ってりゃよかったのに」
「新羅なんかどうでもいいだろ。ドタチンがいなきゃつまんない」
「臨也って本当に酷いね。中学からの仲なのに除け者扱いとか、どれだけ薄情なの、君」
3人の応酬に、静雄は入り込むこともできないまま。
――ただ、どうにも気持ちが悪かった。
分かってる。あの唇は、あの瞳は――
「…なに、シズちゃん」
無意識に伸ばしていた腕は、臨也の服を掴んでいた。振り返った臨也は、この上なく怪訝そうな表情を浮かべていて。
「離してよ、気持ち悪い」
「―――…悪い」
思わず呟いて、手を離した。勿論、2人の関係など知らない門田たちは目を丸くする。
しかしそこはかとない気まずい雰囲気に、何を尋ねることもないまま、昼食を食べ始めた。
「ドタチン、一口頂戴」
「ん?ああ」
2人の会話が否でも耳に入ってくる中、静雄は黙ってパンを口に運ぶ。同じように会話に入っていない新羅は、いつものように嬉しそうな顔で弁当を食べていた。
――自分がここにいる必要など、あるのだろうか。
ふと、そんなことが頭に過ぎる。
居ても居なくても変わらないのだ。ただひたすらに暇で、なのに胸の潰されるような苦しさが身体を占拠する。
こんなの、一人で居るよりも孤独だ。
元はこんなのが当たり前だったし、臨也と形だけでも付き合いだす前は何とも思わなかった。
――ただ、こんな風に胸を苦しませる原因に、彼が存在することが恨めしくて、腹が立って。
憎くも何とも無い大切な友人であるはずの門田が気に入らない自分が、一番悔しい。
結局は全てを彼に転がされていた。
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