Novel2

□何故。
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――しかし、その数日後のこと。

「シズちゃん、俺に付き合ってよ」

不意に言われた台詞に、静雄は眉をひそめて首を傾げる。

「は?どこに」

「んー、どこにっていうことじゃないんだけど。
“恋人ごっこ”みたいな?」

理解の出来ない言葉に、静雄は思わず素っ頓狂な声を漏らした。――いや、だって。

「手前は…門田が好きなんじゃねえのか?」

――すると、臨也は止まった。しかしそれも一瞬で、刹那にしてその表情は冷え冷えとしたものに変わる。

「…何で知ってるの」

「――手前見てりゃ、分かる」

静雄の返答に、臨也は俯いた。そうなんだ、と呟くように言った後は無言になってしまったものの、再び上げられた顔は普段通りの表情に戻っていた。

「じゃあ、駄目?」

「…好きでもねぇ奴と付き合ってるふりなんかしてどうするんだよ」

静雄の低い声に、臨也は笑う。まるで軽いことを跳ね飛ばすかのように、笑う。

「だって、ドタチンに空きなんて言えないよ。シズちゃんなら、何があっても自然に振舞ってくれそうだし。
それに、本当に好きな人に男好きなんてばれたら、俺死にたいし。あ、だからドタチンには秘密ね。新羅にも。」

「――俺は手前の言いなりじゃねえんだぞ」

「そんなの知ってるよ。知ってる上での提案さ。
それに、ドタチンと一番体格似てるのがシズちゃんでしょ?」

――そんな理由で、喧嘩相手と恋人同士のふりをしなければならないのか。
ふざけるな、と一蹴してろうと臨也を見て。――不覚にも、胸が高鳴った。
…そんな瞳で、

「…うざかったら、終わりだからな」

低く言った静雄の声に、臨也はぱぁっと明るくなった。
ありがとう、と心底嬉しそうに言った臨也は、伸ばした腕で静雄の手を握る。触れた温かな体温は、静雄には不慣れすぎて。
――その手を握り返してしまった時点で、俺はもう喧嘩相手ではなくなってしまったのだ。
この時にはすでに、愛情が芽生えていたのだから。


――それからは、2人きりになると度々恋人同士のように接するようになった。
…しかし、それは臨也の気まぐれだった。
気が向かなければいつもと変わらないし、かと思えばべったりと甘えてくる。電話などはこちらがかけても出やしないくせに、あちらから電話してきたときは「寂しかった」と「楽しい」とはにかんでみせるのだ。まるで、気侭な猫のように。
勿論、それが満足のいくものであるはずがない。苛立たないはずが無いし、何度もその電話に出るのをやめようとした。
――しかし、それができなかった。できなくなってしまった。出ないと分かっていても電話をしたり、その電話を待ってる自分がいたり。
狂わされているのだ。感情も、日常も、何もかもを。




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