Novel2

□夕暮れ
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触れることも近寄ることも出来ない。そして、触れに来ることも近寄ってくることも無い。
どんな生き物にしろ、感情が伴ってしまうから。
愛しさなんていうのは更に特別で、その為に泣いて笑って怒って喜んで、愛を確かめ合うのだから。

「俺さ、欲求不満かも」

「…は?」

ぱちくり、と瞬いた瞳を見れば、自嘲気味な自分の姿が闇に紛れて映っていた。

「でも、やっぱりそういうことは好きな人としたいよね?シズちゃん」

何のことか察したのだろう、静雄の顔は暗がりでも見る間に赤くなっていく。その様を見ている自分は、酷く乾いた笑みを浮かべていた。

「感情って鬱陶しいよね。
動物みたいに、本能で相手を選んで、セックスして、って機械的になれればいいのにさぁ。何でこんな複雑な感情を抱く生き物になったんだろうね。
…恋愛感情なんか、無ければいいのに」

呟いた声は、掠れた。
顔面に貼り付く嘲笑は、剥がれることを拒む。

恋愛感情なんか無ければ、動物のように本能で生きる生き物だったならば、俺は君とキスやセックスを出来るような関係になれたのだろうか?
自由に会っても、隣同士で歩いても、夕暮れの中で二人で話していても、寂寥を味わわずにいられたのだろうか?
こんな感情を抱くことも、苦しい思いすることも無かっただろうか?
――こんな愚説、叶うはずも無いけれど。

静雄は、臨也の言葉に優しい笑みを溢した。その笑顔が酷く残酷な物に思えてしまい、臨也は視線を俯ける。

「大丈夫だろ、手前、普通に綺麗な顔してるしよ、まぁ確かに性格悪いところはあるけど――言えば分かってくれるだろ。
自分が抱いた気持ちを、理由付けして無かったことにするのを望むなら、最初から好きになるなよ」

正当な意見。だからこそ余計に胸を抉る。
それなら、いきなり俺がシズちゃんに「好き」なんて言ったら、どうする?
「セックスして」なんて言ったら、どんな反応をする?
動揺するだろ。気持ち悪いと思うだろ。こんな風にごくたまに隣に来てくれることも無くなるだろ。
好きな奴には、好きな奴がいて。しかも両想いで。
そんな中に挑めるほど、俺は強くいられないよ。

「シズちゃんは、それが叶わないって分かってても好きでいたい?」

「ん――それだけで好きじゃなくなるなら、その程度の感情だったってだけだろ」

好きだよ。好き。大好き。
ねぇ、

「シズちゃん、」


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