Novel2

□夕暮れ
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――静雄の彼女は、静雄と同じクラスの女子。
性格は大人しい方で、実はずっと静雄のことを見ていたらしい。
席替えをした時偶然にも隣同士になり、彼女から話しかけて仲良くなり…
彼女の方から駄目元で告白し、それを静雄も受け入れた――。
内密に探りを入れてそう知った。――現状は、二人で楽しそうに帰る姿を毎日見れば一目瞭然だ。

そんな、よく有りがちなカップル成立の仕方。
…そんなの、シズちゃんらしくないじゃないか。何処にでもあるカップルの風景など、彼以上に似合わない奴が何処に居ると言うんだ。

「――化け物のくせに」

呑み込まれそうな赤に染まる夕暮れ。その放課後の屋上で呟けば、風がその声を掻き消した。
運動場にはランニングをする陸上部の姿があり、男女の声の混じるかけ声が空に響いている。
学校の四方を一望出来る屋上は、頻繁に訪れる場所のひとつでもあった。…とは言っても、喧嘩をしなくなり以前よりは減ったのだけれど。

ふと目を向けた西の空では、既に橙色の光が沈もうとしていた。
早めに学校を出ると必ず静雄とその彼女の光景に出くわすため、帰宅時間を遅くしているのだが、ぼんやりと考え事をしていたら時間が経ってしまったようだ。
そろそろ帰ろう、と教室へ荷物を取りに踵を返した時。

…ふと向けた視線の先。
見慣れた金色の光が、校舎へ入っていくのが目に入った。

臨也は思わず動きを止め、視線を逸らす。
どうしよう。こんな時間に学校に何の用があると言うのだ。今戻ったら鉢合わせてしまうだろうか。
ぐるぐると思考を巡らす頭に気がつき、臨也は自分の情けなさに頭を抱えながら、壁にもたれ掛かった。

「動揺するはず無いだろ、憎みに憎んだ喧嘩相手なんかに…」

いい加減にしてくれ。こんなみっともない気分、やっていられない。
全部、シズちゃんのせいだ。シズちゃんが全ての元凶なのだ。

そんな自分を押し込み、根を張ったように固まった足を引き摺って教室へ行こうとドアノブへ手を添えた時だった。
くるり、と手の中のノブが独りでに回った。驚いてぱっと手を離せば、扉は勝手に開き。


「…シズちゃん……」

思わず呟いた声に、目の前に現れた彼は、何してやがる、と僅かに眉をしかめた。
最悪だ。結局会ってしまうなんて、不運にも程がある。

「じゃあ、俺帰るから」

そう言って、静雄の横を通り過ぎて帰ろうとするも、静雄に腕を掴まれる。余りにも予想外なことに、臨也の胸は激しく跳ね上がった。

「…離せよ」

「遅くまで学校居たんなら、これ以上遅くなっても然程変わらないだろ」

赤い光が照らす静雄の顔は妙に綺麗に見えて、血の通う人間に思えて。それが醜くて仕方がなかった。
帰らせて欲しい――そう思えど、静雄の手は一向に臨也を離さない。
何のつもりだ。俺を引き留めて何をしようと言うのだ。気持ち悪い。離せよ化物。
頭に浮かんでは消える罵詈雑言は、口を開こうとしても何一つ声にならない。
…ただ、震えそうな唇がようやく紡ぎ出せた言葉は、酷く滑稽だった。

「少しだけ、なら」

ああ、もう。何なんだ、自分が一番気持ち悪い。帰りたい。こいつと二人きりになりたくなんかない。
それでも引かれるがままに戻った紺色の増した屋上は、臨也の思惑に反して生暖かい温度で臨也を包んだ。


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