Novel2
□夕暮れ
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シズちゃんに彼女が出来た。
いつもと変わらぬ日常の最中、唐突にそんな事実が臨也の耳に飛び込んできた。
その光景を見て、真相を確かめて、それが確かなものだと知り。
…しかし、然程驚いていない自分がいた。
いつかこうなるんじゃないのだろうか。
少なくとも、そう思っていたからだ。
数日前から静かになった来神学園は、最早その静寂に慣れようとしていた。
勿論そこに通う生徒も、轟音の響かない穏健な学園の静けさを喜んで受け入れている。出来ればこのまま卒業まで…と思う生徒と教師が大半だろう。
――ただひとり、折原臨也を除いては。
暇だ。暇。暇。暇。やることが無くて、暇すぎる。
休み時間、机に突っ伏していた臨也の肩は、不意に誰かに叩かれた。
「ドタチンかぁ、誰かと思った」
「俺じゃ不満だったか?」
顔を上げれば隣のクラスの見慣れた姿があり、やはり他人に気を配るのを忘れない奴なんだな、と感心する。
ドタチンで嬉しいよ、と笑って見せれば、門田も合わせて微笑んだ。
前の机に座った門田は、大人しく椅子に座る臨也に問いかける。
「暇そうだな。喧嘩しないからか」
初っぱなから図星を突かれ、臨也は僅かに戸惑いつつも馬鹿にしたように笑って見せる。
門田にはいつも見破られるのだ。何処まで見透かされているか堪ったものじゃないが、観察力が優れているのだろう。
「平和だから眠いんだよ」
「…そうか?それならまた別の楽しみでも見つければ良いだろ?」
門田の言葉に、臨也はその笑みを一瞬歪める。
それも見られていたかは知らないが、臨也は再び笑顔に塗り替えた。
「シズちゃんとの喧嘩が楽しみだったみたいに言わないでよ。静かになって清々してるんだから。
何か楽しみを見つけるのは良いと思うけど――ドタチンとセックスする、とか」
「馬鹿か。…まぁ、話し相手くらいにはなってやるよ」
そう言って笑ってくれた門田の優しさに、胸がきゅうと苦しくなる。
と、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴り響き、ひらりと手を振って門田は隣の教室に戻っていった。
やっぱり。分かってはいるよ。
その日の昼食は、門田と新羅と臨也で食べた。此処最近はそれが当たり前で、仕方ないか、と思いつつもそこはかとなく物足りなく思う自分がいる。
でも、これからはこの日常に慣れる一方なのだろう。…そう思えば、順応していく自分が怖くなった。
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