Novel2
□有毒ドロップ
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「…痛いよ、シ」
「手前の仕業だろ」
臨也の言葉を遮った。酷く切迫した自分の震えた声だった。
“何か”にどうにか制圧されている胸。だから、こんなに胸に暗雲が立ち込めているのに、気分だけは青空など疾うに隠れてしまっているのに、臨也を殴る腕が動かない。
その“何か”が何なのか――
分かっているのに認められないそれは、苛立ちの原因の一部でもあった。
臨也は数度目を瞬かせ、それから困ったように笑う。
まるで、自分は知らないとでも言わんばかりに。
「俺は何もやってないよ。
例えしてても、シズちゃんは見てないだろ、俺が指図しているところなんかさ」
見ていない。
見ていないけれど分かるのだ。
心が弱っている時に限って必ず会いに来るこいつ。
そして。
「それに、俺はシズちゃんを愛してるんだよ?
愛してる奴に、誰にも愛されていないなんて言うわけないじゃん」
嘘。
嘘嘘嘘嘘。嘘。嘘ばかり。
胸が苦しくて、息がままならなくて。
瞼が熱く、重くなるのを感じて俯いた。視界が情けなくぼやける。
「…嘘だ、手前が」
「信じてよ、シズちゃん」
優しく囁いた臨也の腕が静雄に伸び、そのまま首もとに抱きつかれた。
そして、耳元で決まって囁くのだ。
甘く甘く、優しい声で。
「愛してるよ、シズちゃん」
嘘だ。嘘ばかり。
知っているのに。
抱き締めてくれる腕の温かさは、臨也以外誰もくれない。
愛してるだなんて甘い言葉、臨也以外誰も囁きはしない。
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