Novel2

□有毒ドロップ
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「シズちゃん、何してるの?」

3限目。
授業をさぼって屋上の貯水タンクのフェンスに凭れかかっている静雄に影を落とした、見慣れた姿。
天辺まで昇りかけの太陽を背に黒いシルエットを浮かばせるその姿を見上げて、静雄は僅かに眉をしかめながら口を開いた。

「…臨也」

囁くような声で呼ばれた臨也は、眩しそうな静雄の顔にニコリと愛嬌たっぷりに笑いかけた。


カシャン、と涼やかな音を響かせて、臨也は静雄の隣に腰を下ろしてフェンスに凭れた。
依然空を見上げたままの静雄をちらりと見た臨也も、静雄と同じように空を見上げる。
すっきりと晴れた空。
何処かの国では紛争が、何処かの国では核爆弾が、そんなことは思わせない青い天井が、ただ一面に広がっている。
この空も汚れているのだろう。そんなことをふと思う。

「空、見るの好きなの?」

隣から響いた凛とした声に、静雄は考えるように目を細め、それからゆっくりと口を開いた。

「好きっつうか…落ち着く。」

「ふーん…なんかシズちゃんっぽい」

そう言ってケタケタと馬鹿にしたように笑った臨也。
悪いかよ、と睨み付ければ、別に、と空嘯かれた。

何を言っても無駄だ。これ以上臨也と話してても苛立ちが募るだけだ。
そう察するのは容易く、静雄は空の明るい蒼とは真逆な重たい気分を心の底に溜めたまま、瞼を閉ざした。
風が頬を撫でて、髪を揺らしていく。
ふと、隣の濡羽色の髪がさらわれているのを見たくなって、一度閉ざした瞼を開いた。
隣の臨也は、アスファルトをじっと見つめていた。
黒い髪が青空を背景にさらさらと流れる姿は、やけに眩しく綺麗で。
それを見ていると、臨也が此方に気がついた。ぱち、と紅く綺麗な瞳に、お世辞にもしゃきりとしない自分が映り込む。

「何かあったの?昨日とか」

「ん…いや、何も」

嘘。どうせ見破られるのを知りながら、最後の抵抗に嘘を吐く。
臨也は静雄をじっとみて、それから苦笑を漏らした。

「嘘だろ?顔に書いてある」

ぐ、と喉元で息が詰まる。これで今までで何度目だろう。
きっと今回もこいつの仕業。
下唇を噛み締めて臨也を睨み付ければ、臨也は困ったような顔で静雄を見た。

「怖いよ、シズちゃん。
どうせ、誰かに言われたんだろ。化物だとか、独りぼっちだとか。
誰にも愛されていないだとか。」

頭に血が昇る。パチンと何かが弾けて、勢いのままに臨也をフェンスに押さえつけていた。
ガシャン、と激しい音が耳に突き刺さり、続くように自分の荒い息遣いが届く。


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