Novel2
□エニグマ
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後に残された臨也は、近くの壁に背を付けて、ずるずるとへたりこんだ。
分からない。
分からないのだ。
静雄のことなんか。
単純だから分かりやすい。彼が愛されたいこと。自分の怪力を蔑んでいること。そんなものは、今まで喧嘩してきて知り尽くしている。
でも、ある境界からぱたりと分からなくなるのだ。
でも、そんなの知らなくても分かる。
静雄に嫌われていること、くらい。
現在の関係に痛みを覚えたのは、もう随分前。
ふとした瞬間の優しさが、胸を苦しめていることに気がついた。
それが恋愛感情だと知ることになったのは、妹二人が静雄の弟である幽への想いについて語っていたのを聞いていたとき。
恋心とはそんなものなのか、と知った。
でも、プライドからか素直になれるはずもなく。
そもそも、嫌われていることを知っている相手に好きなんて、言えるわけが無いだろう。
喧嘩でしか繋がっていないのに。
だから、今日の言葉も、自分の中ではいっぱいいっぱいだった。
遠回しにし過ぎて、結果怒らせてしまったのだけれど。
「気持ち悪がられるよりかはマシか…」
ぽつり、と呟いた声は、生温い空気に消える。
…でも、あれは間違いなく拒絶だった。
きっと、一生叶わない。一生、俺は愛されない。
シズちゃんは知らないのだろう。
彼を愛している人は、確かにいることを。
きっと、シズちゃんなんかよりも俺の方が、よっぽど独りぼっちだということを。
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