Novel2

□※「ねぇ、いかないで。」
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「腰痛ぇだろ」

シャワーを浴びて戻ってくれば、次に浴びる準備をする静雄に言われる。
小さく笑って見せながら、「平気だよ、別に」と答えれば、そうか、と言いながら静雄は風呂場へ入っていった。

取り替えられたシーツにダイブすると、ふんわりと洗濯洗剤が香る。
彼が煙草でも吸っていたのだろう、微かに嗅ぎなれた紫煙の香りも混ざった。

ほっとしていた。
今までのように、気遣う言葉はかけてもらえたことに。
何だかんだ、彼は不器用なだけで優しい。
言葉すらかけてもらえなくなれば…終わり、だと思う。

…でも、振られるのも時間の問題かもしれない。

ふ、と頭に過った言葉を、首を振って追い払った。
考えたくない。
でも、思えば思うほどに、思考は傾く。

別れたくない。

身体的にも精神的にも疲れているのに眠ることもできないまま、ベッドへ突っ伏した。


…そのうちに、静雄が風呂場から出てきた。
ベッドへ伏せたままの臨也の隣に静雄は腰を下ろし、再び煙草を吸い始める。
横目に静雄を見上げれば、不意に此方を見た彼と目が合った。

「起きてたのか」

「…うん」

視線を逸らせば、静雄の目も離れる。
何処かホッとしながら再び枕に顔を埋めようとして、
突然、頭に手を置かれた。

こんな風に触られたのは久しぶりで、臨也は跳ね上がった胸に対して身体を固める。
静雄はその手を動かすこともなく、口を開いた。
静かな、静かな声で。


「何で、セックスするんだよ」


どきり、とした。
そんなの、言えるはずが無い。
然り気無く見上げれば、静雄は特に此方に目を向ける訳でもなく、半分近くまで減った煙草を吹かしていた。


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