Novel2

□(※)にゃんにゃん!
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「絶対、強く握らないでね」

臨也の警戒心剥き出しな声に、静雄は思わず笑みを漏らす。
何笑ってるの、と恥ずかしさを孕んだ声で言われ、別に、と返しながら臨也をまじまじと見た。

耳を隠すようにいつものジャケットのフードを被っているものの、耳があるであろう辺りが僅かに山になっている。
流石に尻尾はどうなっているか分からないが、上手く仕舞い込まれているのだろう。
普段は苛立ちにしかならない態度も、猫、というオプションが付いただけでどうも可愛らしく感じてしまうのは、自分が動物好きだからだろうか。


「…触るの?」

戸惑いつつ紡がれた声に、静雄は我に返る。
臨也は俯きながら、ちらちらと静雄を見上げるのみ。
猫耳やらなんやらは、やはり恥ずかしいのだろう。

「フード取れよ、あと尻尾も出せ」

「〜〜っ…」

赤い瞳は落ち着かずさ迷いながら、臨也はそっとフードを外した。
その下から、黒い毛並みの、確かに猫の耳が出てきた。カチューシャなどの陰はなく、確かに臨也の頭部から生えている。

尻尾も上着に隠されていたのだろう、尾の根元を気にしてかズボンのベルトを緩め、上の服から取り出された物は確かに黒く、ゆらりと自然に宙を揺れた。

「…すげぇな」

わくわくしながらそう言えば、臨也は「新羅のせいだよ」と不貞腐れたように紡いだものの、照れ隠しだったのか、尻尾が斜めに揺れる。
怒らせたり泣かせたり笑わせたりしたら、きっと尻尾を見ているだけで飽きないのだろう。

そんなことを思いながら、静雄は座っている臨也に歩み寄り、目の前に腰を下ろす。
びく、と驚いたように、肩と尻尾が跳ねた。

「触って良いか?」

「良いけど、強くは握らないでね!?
俺の耳が猫耳に変形しただけだから、この状態で怪我したら戻っても怪我した状態なんだから」

そんなに警戒するなら、触らせなければ良いのに。
そう思いながらも、静雄は漆黒の髪の中に立つその耳に触れた。

びくんっ

「っぁ!?」

指先が触れた。触れただけ、だ。
それだけで、臨也の身体が跳ね上がる。喉元からは、小さく甲高い声が漏れた。
予想もしなかった反応にきょとんとしつつ、でも身体が僅かぞくりとしたのは事実。
再び、優しく掴むように耳に触れた。

「ふ、わ!ちょ、っと、シズちゃん…っ」

掴んだ状態で擦るように指を動かせば、臨也の身体は更にびくびくと震える。

待て。
待て待て待て。
待つんだ俺!

どうにか自制心で止まり、静雄は耳から指を離す。
臨也は真っ赤な顔で、上がった息を整えるために深呼吸をしながら静雄を見た。
先刻の誤魔化しようのない反応を隠すためか、突然悪態をつきだす。

「何その顔、すっごい間抜けだよ?馬鹿丸出しもほどほどにしなよ、かっこわるい」

…勿論、苛立ちもしない。普段の鋭い声とはまるで違う。


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