Novel2

□※地獄の温度
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手首の骨が軋む。身体が思うように動かない。頭がグズグズと痛む。

――ぼんやりとした意識が、水を差したように一瞬で覚醒した。
目を覚ました臨也は、見上げた先にある見慣れない天上をぼんやりと眺めた。
自らの状況を把握しようと起き上がるために手をつこうとしたものの、腕が頭上で纏められていることに気がつく。
だから手首が痛んだのか、と思えば、頭まで痛みを引き連れてきた。

反動でどうにか起き上がり辺りを見回すが、臨也の記憶上この場所に覚えは無い。
状況の呑めないままに関わらず、脳内には警鐘がガンガンと鳴り響いている。
幸い脚は縛られておらず、歩く事は出来そうだ。それに見たところ、ただのアパートの部屋らしく、数歩進んだ先に扉が見える。
とにかく逃げ道を探す他は無い、と危険を覚悟で立ち上がろうとした時だった。

ぱたり。ぱたり。
フローリングを歩くような音が、扉の外に微かに響き渡る。
身を固くした臨也の目が扉に注視されると同時、扉は古い金具を軋ませて開いた。
驚きと心臓が破裂しそうな緊張のまま、そこから現れた姿に、――臨也は一瞬、気が抜ける。
それをまざまざと露呈させた声のまま、臨也はぽつりと声を漏らした。


「…シズちゃん……?」


そこには、犬猿の仲、という一言では片付けられないほどこの上なく仲の悪い、シズちゃん、平和島静雄の姿があった。
目が合い、ふ、と頭に映像が流れ――どうしてここにいるのか、それに気が付いた。


今日も、仕事の関係で池袋に来ていた。
それをこなして家路につく。が、やはり静雄は臨也の存在を嗅ぎつけたようで、鬼ごっこが始まった。
静雄の手から、喫茶店の看板が飛んでくる。
いつものように避けようとして、誰かが捨てたらしい空き缶を思いきり蹴ってしまった。その音に驚き、一瞬動きが止まってしまう。
看板が思いきり頭に直撃する。酷い衝撃が走り、一瞬で視界が暗転し――そのまま、気を失った。



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