Novel2

□SweeT Valentine's Day
4ページ/5ページ


勿論当てつけなんてつもりは無かったし、仲違いしては、チョコを渡すどころではない。
大嫌いの言葉はなんともないのに、どうしてすぐに引き留められなかったんだろう。
シズちゃんの言葉は、俺を容赦なく一喜一憂させる。


クラスも違い、昼休みは新羅や門田も一緒に食べる。
結局二人きりになれないまま、放課後になってしまった。

…結局、渡せないまま。しかも、バレンタインに喧嘩するなんて、そんなの辛い。
鞄の中に入れたままのチョコは、臨也の信者のくれた10を越すチョコとは別の場所に、こっそりと仕舞い込んである。

…やだ。こんなの、いやだ。
明日には仲直りしたとしても、明日じゃ意味がないのに。

臨也は、チョコを渡そうか迷っていた日のように、人のいなくなった教室で突っ伏した。
窓から見える街には、あの日に降った雪が未だにちらほらと残っている。まるで、過ぎていく今日を惜しむかのように。

どうして、こうも可愛いげがないんだろう。
どうして、素直に言えないんだろう。
シズちゃんを好きな気持ちなら、誰にも負けないのに。
全部、全部、悪い方に空回りしてばかり――


「臨也…?」

聞き慣れた声が、ふと耳に入った。
まさか。そう疑いながら、跳ね上がった鼓動のままに、声のした方へ顔を上げる。
…そこには、疑ったその姿があった。

「シ、ズちゃん…」

どうしているのだろう。もう帰ったと思っていたのに。
顔を上げて静雄を見つめたまま動けないでいる臨也へ、静雄は僅かに困ったような苦渋を滲ませた顔で歩み寄った。

「朝は、ごめん」

どきり、とした。同時に、ちくり、とも。
何か、彼が謝ることがあっただろうか。そう思い、おずおずと首を傾げて見せた臨也に、静雄は静かに口を開く。

「手前の下駄箱からチョコ、落ちてきたことだよ。
勝手に勘繰ってキレて、ごめんな」

「え…うん、いい、よ」

ほら、また。頭が回らない。口が動かない。喉元で声が詰まる。
これじゃ駄目だ、って、分かってるのに。

「…帰るか」

そう言って頭に置かれた手は優しくて、鼓動は心中の葛藤も相まって激しく跳ね上がった。
これで満足していたら、だめ。シズちゃんに助けられてばかりでは。

言わなきゃ…っ


「シズちゃんっ」

「どうした?」

突然あげられた声に、静雄は首を傾げる。
ばっと立ち上がると、鞄の中に大切に仕舞い込んでいたそれを、迷いながらも取り出した。
きょとんと目を丸くした静雄へ、俯いたまま差し出す。

「こ、れ…っ」

何を言えば良いんだろう。何か言わなければ。
そう思っても、熱く火照った顔は上げられず、言葉も出てこない。

ふるふると僅かに震える手から、静雄の骨張った大きな手がチョコを受け取った。
でも胸は落ち着かないまま、頭まで鼓動が響いてくる。


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ