Novel2

□ゆめ ゆめ
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「知ってる」

知ってる、って、お前。
そう口を開こうとしたものの、先に臨也が声を発した。

「じゃあ、嫌いになってよ」

唐突な台詞に、きゅう、と胸が苦しくなる。
どうして、なんで。
問いかけようにも声にはならなくて、自問では行き着くべき答えは見つからない。

臨也は、まるで学者が自説を語るみたいに、口を開く。

「シズちゃんが俺を嫌いになってくれなきゃ、俺たちの関係は坂を転がるみたいに変わるんだよ。
別に俺もシズちゃんを嫌いになる努力はするけどさ、
好きじゃないなら、嫌いになってよ、今すぐ」

抑揚の無い声が、静雄にのし掛かる。
伏せた紅い瞳は、静雄から逃げるように逸らされた。
…嫌いになって、なんて。

「それは、押し付けだろ」

その声に、臨也は頭を上げた。
まるで何かを堪えているような表情は、胸を苦しくする。
納得いかなくて、静雄は眉をひそめながら口を開いた。

「あれか、自分は嫌いになれないから、嫌いになってもらえば自分もそれに合わせてやる、ってことか。
何様だ、手前は」

臨也は言葉に詰まったように再び俯いてしまう。
でも、その顔に嘲笑を浮かべると、言った。

「だって俺、シズちゃんと違って感情隠せるから。
そういうの、シズちゃんは苦手だろ」

嘘吐け。
そんなに震えた声で、泣きそうな顔で、何も隠し通せていないくせに。

静雄が反論に口を開こうとする。
しかし、臨也の明るく振る舞った声が、静雄を遮った。

「そういうことだから、宜しくね」

明るくて、なのに中身の無い、ただ空間に響くだけの声。
引き留めようとしたのに、臨也は投げ捨てたナイフすら取り戻さずに路地を走り出ていった。
追いかけて路地を出たときには既にその背中は見えず、
ただいつもの騒がしい街が広がっているだけだった。

仕方なくナイフを拾い、次に会ったときに返すことにして、静雄は自宅へ帰った。




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