Novel2

□「また会えたら。」
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懐かしいな、なんて臨也は思う。
隣でぐっすり寝ている、こいつは覚えてないだろうけど。
しかし、今の今まで、あんなに憶えておこうと思っていたことを忘れてたなんて。
…まぁ、人間の記憶力なんてそんなものだろう。
寧ろ、あの時から6年も経って、高校にもなってから思い出せたことも凄い。

あの頃の俺が、この怪力と対等に渡り合えるようになるなんて思いもしなかっただろう。
…しかも、友達以上の関係になるなんて。

傷んだ金髪を撫でれば、浅い眠りだったのか、静雄は瞼を開けた。

「ごめん、起こした?」

「いや…別に」

伸びをした静雄は、寝惚け眼を擦りながら欠伸をして、
思い出したように唐突に口を開く。


「手前、小学生の頃に入院したことあるか?」


――唐突な質問に、臨也は目を瞬かせた。
まさか、シズちゃんが憶えてたなんて…予想外。
目を丸くしている臨也に対し、静雄は記憶を手繰りながら言葉を紡ぐ。

「小学生の頃は骨が脆かったから重いもの持ち上げる度に骨折って入院してたから、いつだったか憶えてねぇんだけど、
手前に似たような奴に会ったんだよ。外見とか、雰囲気とか」

「…多分、俺、だよ」

シズちゃんが憶えてたなんて。
絶対、忘れてると思ってたのに。

まだ目を瞬かせる臨也に、静雄は、やっぱりな、と言いたげに笑いながら続ける。

「入学した時なんとなく似てるとは思ってたんだけど、それ以来忘れてた。
一昨日くらいに思い出して」

…何だか、嬉しくなってしまう。
今まで殴ってきたやつのことは忘れてるくせに、
幼い頃の、生きてる時間に比べたらほんの一部の出来事を憶えているなんて。
しかも、入学した時点で気づいていたとは。

「シズちゃんは絶対忘れてると思ってた」

「人を馬鹿にするな」

ドスの効いた声で言われ、臨也は笑う。
いくら、大して遠くに住んでいるわけでは無いからと言って、
高校で再び知り合うことが出来るなんて、偶然の可能性を信じてしまう。
世界は狭い、とは言うものだ。


不意に静雄の顔が近づいた。
素直に目を瞑って首を傾ければ、柔らかい感触が唇に重なる。
シズちゃんのキスは、好きだ。
温かくて、口付けと共に顎に添えられる骨張った指は、何とも言えないくらい胸を擽る。

唇が離れ、静雄は笑った。
臨也もつられて笑えば、胸がくすぐったくなる。
その笑顔に、臨也は再び唇を重ねた。



静雄は思う。
あの時笑顔を見た瞬間から、
きっと既にこいつに惹かれてたのだ。

この、綺麗な、愛しい笑顔に。






END
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