Novel2

□SWEET NIGHT
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「シズちゃん、メリークリスマス!」

扉を開けて第一声。
臨也の苛立つくらい明るい声に、静雄は目を丸くした。


そう、世間では今日はクリスマス。
クリスマスに肖って店ではセールが行われていたり、ケーキ屋はいつにも増して込み合っている。
静雄の住む池袋も、何処もかしこもクリスマスカラーで彩られている。

…でも、自分には関係ないと思っていた。
仕事が休みだったり、セールなのは嬉しいけれど、特にその空気にのるつもりもなく。
クリスマスらしいと言えば、弟の幽からプレゼントに新しいサングラスが送られてきたことだろうか。
まぁきっと、それくらいしかないと思っていたのだけれど。


「お邪魔しまーす」

突然の来訪にきょとんとしたままの静雄に対し、
当の本人の臨也は何食わぬ顔で静雄の家に入ってきた。
ハッとした時には、臨也は手に持った荷物を机に置いて当然のように座ろうとしている。

「っ、手前、何の用だ、
て言うか、どうしているんだよ!」

静雄の声に、臨也は座りながら、不満そうに唇を尖らせた。

「クリスマスに恋人同士が一緒に過ごすのは当たり前だろ」

「今日は用があるから誘うなって言ったのは手前だろうが!」

…二人は付き合っている。
数日前、何を思ったのか臨也は「クリスマスは用があるから誘わないでね」とだけ言ってきた。
確かに、それは僅かばかり残念ではあったのだけれど、特に理由を聞き出す必要も無いだろう、と適当に返事をした。
…なのに、なんでいるんだこいつは。

「何だよ、シズちゃんったらつれないなぁ…
用事はちゃんと済ましてきたし、そんなに怒らないでよ」

臨也はなおも笑いながら、
持ってきた荷物の箱を静雄の方へスライドさせた。
中身を確かめようと箱を持ち上げた静雄へ、
「傾けないでね、ぐちゃぐちゃになるから」と言いながら、臨也は立ち上がってキッチンの方へ歩いていってしまう。
素直に傾けないように机に置き直して、箱を開けた。

「……え」

中身はケーキだった。
何処かのお菓子屋で買ってきたような、見た目はさほど豪華では無いけれど決して安くはないだろうケーキ。
キッチンから皿とフォーク、ケーキを切るナイフを持って戻ってきた臨也を見れば、ふい、と視線を外された。

「…手前が作ったのか?」

その態度に思わず問いかければ、臨也は頬を僅かに赤く染めて、呟くように言う。

「不味くは無いと思う」

器用だな、と感心しながらケーキを見た。
そう言えば、臨也は料理が出来た。
高校の時の調理実習も、何でも散乱させる自分に対して、臨也はテキパキとやっていた。
…あまりの酷さに、馬鹿にされたことを覚えている。


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